泥酔したフリをしていると男が声をかけてくる。誘いに乗って男の部屋についていく。だが、その気になった男が体を求めてきた瞬間、彼女は牙をむく。物語は、女を性的な対象としか見ない男たちと傍観者に鉄槌を下すヒロインの執念を描く。何が彼女を駆り立てるのか。誰を憎んでいるのか。静かな怒りに燃える悪女と、恋する女のすさまじい落差。先の読めない展開は非常に斬新でエモーショナルだ。それはまるで恨みを残して死んだ女が怨霊となって復讐しているかのよう。彼女の怨念は上質なサスペンスに昇華され、洗練された映像は一瞬たりともスクリーンから目が離せない。あらゆる予想は裏切られ続け、恐怖を鮮やかに印象付ける一方、迷いのない彼女の覚悟は爽快さすら覚える。まったく新しい境地を開拓した作品だった。
医大を中退したのちカフェでバイト暮らしをしているキャシーは、元同級生のライアンと再会する。早速ランチに付き合うが、ライアンは酒場の男たちとは違い強引に迫ってきたりはしない。
ライアンと付き合い始めたキャシーは、彼からアルという男の消息を聞かされる。その瞬間流れ出す不穏な音楽は、キャシーの心にどす黒いシミが急速に広がっていく過程を饒舌に表現していた。アルこそが自分と親友の未来を奪った相手、キャシーは綿密に準備し、ひとりまたひとりと罠にかけては外堀を埋めていく。そこで明らかになっていくのは、不合意性交における女の立場。意にそぐわない行為に至っても、酔っぱらっていたことを免罪符に男たちは許され、大人たちももみ消そうとする。女は泣き寝入りし、やがて忘れられてしまうが、トラウマは癒えないまま。フェミニズムをホラーに落とし込んだ発想に舌を巻く。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
キャシーは医大生時代に起きた性的事件で姉妹のように仲の良かった親友を亡くしている。当時の関係者は他人事としてしかとらえていない。“被害者が愛するものだったら” というキャシーの問いは、その場にいて止めなかった者ももみ消した者も等しく加害者だと断罪する。
監督 エメラルド・フェネル
出演 キャリー・マリガン/ボー・バーナム/アリソン・ブリー/クランシー・ブラウン/ジェニファー・クーリッジ
ナンバー 132
オススメ度 ★★★★
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