こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

転々

otello2007-11-15

転々


ポイント ★★*
DATE 07/10/19
THEATER SG
監督 三木聡
ナンバー 210
出演 オダギリジョー/三浦友和/小泉今日子/吉高由里子
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


父親に見捨てられた若者と子供を持てなかった男。奇妙な縁で結ばれた2人が、失われた家族の記憶を取り戻すかのようにひたすら歩き続ける。武蔵野から新宿、浅草を巡り、最後には霞ヶ関に至る旅。いつしか2人の間には友情が生まれ、さらに親子のフリをするうちに本当の親子のような感情が芽生え始める。行き場を失った男同士が失われた人生の断片を捜し求めるうちに手に入れた団欒。それが擬似家族であると分かっていても、役割を演じるうちにその気になっていく過程が温かくも切ない。


借金取りの福原に追われている文雄は、福原の東京散歩に付き合うことで借金をチャラにしてもらうことになる。福原は妻を殺し歩いて警視庁に自首するつもりで、文雄と2人で井の頭公園を出発する。その道中、妻との思い出の場所を巡る。


途中、愛玉子の店や初キスの女の子との再会、エレキギターの男や絵描きの女などと関わるシーンがあるが、どれも気の利いたオチがあるわけでもなく不完全燃焼。小ネタで笑いを取る手法はむしろ不発に終わっている。物語の展開も散歩のペースそのもののダラダラしたもの。途中に挿入されるスーパーの3人組のコントのようなやり取りも、映画のスパイスとなるにはキレに乏しく笑いとして昇華しきれていない。唯一ラコステのポロシャツの思い出は笑えたが。


浅草に着いた2人は福原の知り合いの麻紀子の家に転がり込む。そこにテンションの高い女子高生も加わり4人は食卓を囲む。食事のシーンはまさに日本の平均的な家庭の肖像そのもの。これから長い刑務所暮らしが待っている、せめて思い出の中の自分だけは幸せであったと思いたい。そんな福原の想いを文雄は理解し、文雄もまた福原に父の面影を見る。文雄が福原のことを「オヤジ」と呼ぶシーンは2人の想いが凝縮され、映画は転調する。後ろ向きに歩いても過去には戻れない、人生は未来に向かって歩いていくしかないというこの映画のテーマが、長い散歩の最後に福原の後姿で語られるところだけはすごくクールだった。


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