こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アーティスト

otello2012-02-13

アーティスト THE ARTIST

オススメ度 ★★★*
監督 ミシェル・アザナヴィシウス
出演 ジャン・デュジャルダン/ベレニス・ベジョ/ジョン・グッドマン/ジェームズ・クロムウェル
ナンバー 31
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

ハンガーに掛けた男モノのジャケットに袖を通し、自分の腰に手を当てるヒロイン。男女が優しい抱擁を交わしているかのように思える一人芝居は、憧れの人に対する思いと売れっ子になりたい願いを同時に表現する。さらに、その光景を見た男が彼女の鼻の下にほくろを描き、キャラを印象付けろとアドバイスする。愛と夢で心を満たそうとするこのシーンは、今後数十年にわたって“恋愛映画の名場面”と語り継がれるだろう。物語はトーキー移行期のハリウッド、無声映画のスターと新人女優の栄光と没落を描く。サイレント時代の映画作りを忠実になぞった映像は、表情と肉体で感情を再現するという、演じることの原点に立ち戻り、見る者の脳裏に新たなイマジネーションとインスピレーションを喚起させる。

カメラマンに偶然ツーショット写真を撮られた人気俳優のジョージと女優を目指すぺピーは撮影所で再会、ぺピーは端役を与えられる。その後、ぺピーは出演作に恵まれるが、サイレント映画に固執するジョージは大衆に飽きられていく。

ジョージは自らを「アーティスト」と称し私財を投じて新作を完成させるが大コケした上に大恐慌とも重なって破産、一方ぺピー主演のトーキー作品は大ヒットする。時代の波に乗ったぺピーと乗れなかったジョージの立場は逆転、挨拶に来たぺピーをジョージは追い返す。男のプライドと女の情け、雨の中ですれ違うふたりの気持ちが哀しい。また、ジョージの秘書は給料をもらっていなくても文句ひとつ言わずジョージに仕え、そんな彼を解放するためにクビにする。あくまでスターの見栄を張るジョージの胸の内が切ない。

◆以下 結末に触れています◆

そして、出演作をすべて灰にしようとしたジョージは自身も火事に巻き込まれて大けがをするが、ぺピーとの思い出だけは守ろうとする。ぺピーもまたジョージを密かに援助し、決して引き上げてくれた恩は忘れていない。再起したジョージとぺピーが鳴らすタップのリズムは生きる喜びと希望に満ち溢れ、エンタテインメントとは何かを教えてくれる作品だった。

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