こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

トゥルー・グリット

otello2011-01-27

トゥルー・グリット TRUE GRIT


ポイント ★★★★
監督 イーサン・コーエン/ジョエル・コーエン
出演 ジェフ・ブリッジス/マット・デイモン/ジョシュ・ブローリン/ヘイリー・スタインフェルド
ナンバー 17
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


時になだめ時に脅し好条件を勝ち取るタフな交渉力、おだてあげつつ哀願しここぞというタイミングでカネをチラつかせる粘り強い説得力。14歳のヒロインは並みの大人では太刀打ちできないほどの回転の速い頭と、決してへこたれない強靭な精神力を持っている。そのまっすぐな視線が醸し出す真摯さと整った唇から飛び出す言葉の数々は彼女の信念をうかがわせる。無念の死を遂げた父の復讐、心の中は怒りで煮えたぎり悲しみに打ちひしがれているのに、そんな感情を見せると他人に付け込まれると思っているのか一切表情には出さない。この少女を演じたヘイリー・スタインフェルドの圧倒的な存在感が、むさくるしいオッサンばかりの西部劇の世界に凛とした美しさをもたらしている。


父を殺されたマティは犯人のトムを捕まえるために保安官のコグバーンを雇うが、トムはネッド率いるならず者グループに合流し、すでにインディアン保護区に逃げていた。一方、別件でトムを追ってきたラビーフもマティたちと行動を共にする。


殺人犯は公開絞首刑にされ、銃口を向ける者には容赦なく銃弾をぶち込む。まだ銃が正義だった時代、追う者も追われる者も生きること自体が命がけだ。大酒のみのコグバーンと負傷したラビーフ、射撃の腕は確かだがこのどこか危うい2人の男と行動するマティは、荒野をさまよう経験など初めてのはずなのに、何も恐れず絶対に弱音を吐かず自らに課した使命を果たそうとする。男たちの目的は突き詰めればカネ、他方マティの目的は仇打ち。3人の姿勢は、結局、純粋に「正義」を執行できるのは自分や自分の身内が理不尽な目にあった者の復讐心だけという、正義の本質を見事についている。


◆以下 結末に触れています◆


映画は西部劇ながら、ガンファイトの緊張や躍動感を表現することにあまり興味を示さない。ネッド一味とコグバーンの4対1の馬上の決闘など本来ならばスリルとスピードが入り混じった最大の見せ場となるべきところ。しかし、映画はむしろ毒蛇に噛まれたマティを救うコグバーンの姿を精力的に描く。馬を死ぬまで走らせ、その後は彼女を抱いて医師のもとに送り届けようとする。マティの命を救うためにひたすら走るコグバーン、この作品で彼が一番男らしく見えるシーンだった。