こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アリス・クリードの失踪

otello2011-06-15

アリス・クリードの失踪 The Disappearance of ALICE CREED

ポイント ★★★*
監督 J・ブレイクソン
出演 ジェマ・アータートン/マーティン・コムストン/エディ・マーサン
ナンバー 143
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


バンを盗み道具を買いそろえアパートの一室に防音パネルと頑丈なロックを設える。男たちが無言で作業をこなす手際のよい姿はまさにプロ。女を誘拐・監禁・身代金を要求する手順の、無駄な動作がひとつもない緊迫したカットの連続には思わず息をのむ。2人の犯罪者と1人の被害者、用意周到・完璧に練られた計画がわずかなミスが原因でほころび始めるとき、3人の胸に秘めた企みが暴走する。映画は誘拐犯と人質の3人のみで構成され、ほとんど会話だけで進行する。秘密と嘘そして罠、言葉という毒が登場人物の心に広がり、蝕んでいく様子が非常にリアルだ。若い犯人の苛立ちを“トイレの水に流れない薬莢”で表現するあたり、小道具の使い方も洗練されている。


ダニーとヴィックは金持ちの娘・アリスをさらいアジトに拘禁、写真入り脅迫状をアリスの父に送る。その後、ヴィックが外出中、アリスは見張りのダニーから拳銃を奪い発砲、ダニーは覆面をはずして正体をさらす。実は、ダニーはアリスの恋人だった。


怖い思いをさせられたとダニーをなじるアリス。ヴィックを騙すために仕方なかった、カネを手に入れた後一緒に逃げるつもりだったと言い訳するダニー。そこに戻ってきたヴィックはダニーの裏切りに感づき、ダニーもまたヴィックに気付かれたことを察する。さらにアリスは男2人がお互いに疑いの目を向けるように仕向ける。それは信頼の土台に入ったひび割れにくさびを打つ心理戦、それぞれが相手の疑念を払拭するために“愛”を口にする。だが、強調するほど安っぽく聞こえるあたり、“愛”などはしょせんエゴに過ぎないと皮肉っている。


◆以下 結末に触れています◆


物語は二転三転し、予想外の展開に流れていく。その過程でもあくまで犯行のディテールは省略し、3人の駆け引きに終始する。誰を信じていいのか、何が真実なのか、疑心暗鬼の中で言葉は鋭い刃となり、拳銃よりずっと強力に、人間を動かす武器になりうる恐ろしさをこの作品は教えてくれる。