こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ウェイバック -脱出6500km-

otello2012-09-14

ウェイバック -脱出6500km- THE WAY BACK

監督 ピーター・ウィアー
出演 ジム・スタージェス/エド・ハリス/シアーシャ・ローナン/コリン・ファレル/マーク・ストロング
ナンバー 226
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

雪深い森林地帯、水も緑も豊かな湖畔、小石と砂礫ばかりの高原、灼熱の太陽が容赦なく照りつける砂漠、穏やかな風が吹く草原、そして峻嶮な山岳地帯。身を守る武器や狩りの道具、距離や方角の測定具はなく、水も食料も僅かしか持たない男たちは、ただひたすら南に向かって歩く。自由を求めて。映画はシベリアの収容所を脱走した囚人が大自然の脅威に直面しながら、インドまでの気の遠くなるような道のりを徒歩で踏破する姿を追う。登場人物がおかれた過酷な状況を再現するために様々な気候の土地で敢行されたロケーションの厳しさと美しさに、作り手の熱意と映像の力を強烈に印象付けられた。

1940年、スパイ容疑でソ連軍に逮捕されたポーランド人・ヤヌシュはバイカル湖北方の収容所に送られる。そこは四方を森と氷雪で囲まれた極寒の地、しかしヤヌシュは吹雪の夜に6人の囚人と共に収容所を抜け出す。

収容所にいたころはお互いの身の上をほとんど話さなかったのに、バイカル湖で合流した少女・イリーナが話しかけると、寡黙な男たちは饒舌になり彼女にだけは自分の物語を聞かせる。死の不安に苛まれていた彼らが、彼女の前で初めて心に安らぎを覚えていくのだ。やがて家族に伝えたい言葉、叶えたい夢など、具体的なイメージで語られたそれらの思いが彼らを支え、疲れ果てた足を前に進めさせる。その過程で、かつての社会主義体制のバカバカしいまでの矛盾と、それに運命を翻弄された人々の人生が浮き彫りになっていく。国家という抗いがたい権力の奔流に呑み込まれた彼らにとって、生きのびることこそ闘いであり勝利なのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

妻の告発で有罪となったヤヌシュは、彼女が裏切ったのではなくそうせざるをえなかった理由を理解している。彼はまた、米国人のスミスに“優しさは命取りになる”と再三忠告されているのに、持って生まれた性格は変えられない。なにより地獄のような環境の中で自らも命の危険にさらされながらも、決して仲間を見捨てない彼の誠実さが、この苦難に満ちた旅の中で唯一の希望となっていた。

オススメ度 ★★★*

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