こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シモーヌ フランスに最も愛された政治家

女たちが、囚人たちが、エイズ患者たちが、ホームレスたちが、きちんと人間として扱われる社会にしたい。議会では反対する保守派のヤジに一歩も引かず、役所の中では粘り強く交渉し根回しする。物語は、20世紀後半のフランスで人権派政治家として輝かしい業績を残した女の半生を追う。結婚し子育てする一般的な主婦だった。だが、エリート養成校で政治を学び法律を修めた彼女にとって家庭は本来の居場所ではない。夫を説得し面接で自らの熱意をアピールする。まるで立ち止まると死んでしまうかのような勢いで現場を回り、行政に訴え立法を通じて古いシステムを改変していく。一度定めた目標は最後までやり抜く彼女の意志と行動力は、古い価値観にしがみつく男たちの意識を変えていく。それはまさに無血の革命、民主主義の神髄に迫る作品だった。

中絶合法化法案を通したシモーヌは女性政治家の旗頭として勇躍時の人となる。家族と過ごすバカンス中に自伝の執筆を始め、波乱に満ちた人生を振り返る。

若き役人だったころ、刑務所を視察したシモーヌは囚人たちの待遇の悪さに絶句、すぐさま改善を求めるが拒否される。不衛生な環境に押し込められ結核が蔓延している牢獄、囚人たちは皆やせ衰え目には生気がない。彼らの健康を管理しきちんと刑期を全うさせるべく、彼女は時に強硬手段を取る。何事も手続きを経て上からの命令でしか動かない男たち。その役人根性と “女のくせに” というシモーヌへの冷視線がシニカルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして明らかにされるシモーヌの壮絶な過去。それまで収容所帰りのユダヤ人という情報は小出しにされていたが、彼女の記憶から永遠に消えない悲惨な体験が圧倒的なリアリティの映像となって語られる。尊厳を奪われ、いつ殺されるともしれない絶望的な状況のなか母と姉の3人で生き抜こうとするシモーヌ。こんな地獄でも、わずかにやさしさが残っていることもあるのが救いだった。“親衛隊と寝たから生還できた” などと言ってくる市民がいたのには驚いたが。

監督     オリビエ・ダアン
出演     エルザ・ジルベルスタイン/レベッカ・マルデール/エロディ・ブシェーズ/オリビエ・グルメ
ナンバー     142
オススメ度     ★★★


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