こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言

ヒトラーへの忠誠を競うために肉体と精神を鍛えた。ゲルマン民族であることを誇りに思った。その興奮と高揚は生まれ持っているはずの良心を麻痺させた。映画は、ユダヤ人排斥にかかわった人々へのインタビューをカメラに収める。信じる大義に命を捧げた幸福感に浸る者もいる。いい暮らしをするために選んだ道だったと言う者もいる。まだ若さにあふれ人生が輝いていた時代を語る彼らの目は輝いている。だが、ホロコーストへの責任の取り方を問われると一様に口は重くなる。命令されたからなのか、自らの意志だったのか。元武装親衛隊が左腕に彫られた血液型の入れ墨を見せる。「オデッサ・ファイル」では、彼らは身分を秘匿するため焼き鏝でその印を消すが、この元隊員は戦後のナチ狩りをどうやって生き延びたのだろうか?

1930年代、少年・少女時代からナチズムに染まった証言者たちは、世の中が良い方向に向かっていると疑わなかった。一方で徐々にユダヤ人に対する憎悪をかき立てられていく。

ユダヤ人は不潔で独特の匂いがするなど根拠のない噂を流し、彼らの商才への嫉妬を取り繕うとしていた当時のドイツ人。独特の鍵鼻に対する違和感をも偏見の対象になる。彼らは同じ人間ではないという刷り込みが、やがてドイツ人のユダヤ人に対する残虐さを麻痺させる。強制収容所の囚人たちを階段や崖から突き落としたとの証言は、もはや彼らを労働力とさえ見ておらず、抹殺すべき対象であった証拠。焼却所の煙突から死体が焼けるにおいがしたという収容所近くの元住民が、それを口にするのははばかられたと語るシーンは、ナチス支持者でなくても無実ではいられないと訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

学生との対話でつるし上げを食らう元親衛隊員は、自分は犯罪に手を染めていないと主張する。命令に従っただけ。拒否すると死刑になった。学生は彼に罪を認めさせようと責め続ける。異常事態下で果たして人は己の良心に従えるのか。殺さなければ殺されるという状況では選択の余地はない。むしろこの糾弾者が加害者に思えた。

監督     ルーク・ホランド
出演     
ナンバー     144
オススメ度     ★★★


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