こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アウシュヴィッツのチャンピオン

昼間は採石場で石運び、夜は粗末な大部屋で雑魚寝させられる。食料は乏しく治療や投薬はしてもらえない。物語は、強制収容所に送り込まれた元ボクサーがその拳で苦境をサバイバルする姿を描く。監視役に逆らったら容赦なく殴られる。リンゴを盗んでも処刑される。一方で、彼らを管理する軍人たちはストレスのはけ口を探している。そんななか、男はかつて身に着けたスキルを最大限発揮する。体格が勝る相手にはテクニックで、体格が圧倒的な相手にはスピードで、さらに素手ファイトでは知略で対処。十分な栄養とトレーニング環境を与えられた彼は、万全の肉体を作り上げて試合に臨み勝利を重ねていく。戦果で得たパンを惜しみなく同房者に与え、病気の少年のために薬を手に入れる。自分ひとりだけではなく、仲間のためにもリングに立ち続ける彼の、生存への渇望が鮮烈だった。

逮捕されたテディは労働キャンプに収監される。トラブルになった監視役とのタイマンで勝ったことから、ドイツ軍の前で定期的にボクシングの試合をすることになる。

アウシュビッツ」で「ホロコースト」を生き延びたというとユダヤ人と結びつけてしまいがちだが、テディと同房の囚人たちは政治犯であり非ユダヤ人のようだ。ユダヤ人は列車で収容所に到着するなりガス室への列を作る。テディたちは彼らを横目で見ながら何もできない。問答無用で殺されるユダヤ人と比べ、ボクシングで観衆を熱狂させている限りは生かされる自らの境遇を複雑な気持ちで受け止めたはず。死ぬよりはマシなのか、死んだ方がマシなのか。ぶちのめされ吊るされ墓穴に放り込まれてもなお立ち上がるテディは、闘いを選ぶ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ドイツ軍を満足させても、しょせん彼の命はドイツ軍幹部の掌中にある。彼らの気分ひとつで射殺される事態は変わらない。己の未来を勝ち取るというというよりは、ほとんど運任せ。希望などない、ただ今日一日をやり過ごすのみ。個人の力ではどうしようもない世界、それでも目を曇らせないテディの勇気が胸を打つ。

監督     マチェイ・バルチェフスキ
出演     ピョートル・グロバツキ/グジェゴシュ・マウェツキ/マルチン・ボサック/ピョートル・ビトコフスキ/ヤン・シドウォフスキ
ナンバー     138
オススメ度     ★★★


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