こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

パパの木

otello2013-06-19

パパの木 THE TREE

監督 ジュリー・ベルトゥチェリ
出演 シャルロット・ゲンズブール/マートン・ソーカス/モルガナ・デイビス/クリスチャン・ベイヤーズ/エイデン・ヤング
ナンバー 145
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

耳を澄ませれば囁きが聞こえる。それは大好きだったパパの声、きっとパパの魂は庭の大きな木に乗り移って私を見守っていてくれる。突然父を亡くした幼い少女の、そんな気持ちが切ない。そしてすっかり気力をなくした母と自分勝手な兄弟たちに囲まれて、彼女は大人にならざるを得ない。まだ8歳、死の意味もきちんと把握していないだろう。にもかかわらず母を叱咤し兄弟に注意を促し父が遺した家と木を守ろうとする姿が健気で頼もしい。映画は大黒柱を失った一家が再生していく過程で、親子の絆とは何かを問うていく。人間がやってくるずっと昔から大地に根を張り幅広く枝を広げたゴムの木が圧倒的な存在感を放つ。

仕事帰りに父が急死してからふさぎ込んでいる母のドーンを励ますシモーンは、ある日、庭に生えているゴムの大木に言葉をかけられた気になる。ところがその日からゴムの木を巡ってトラブルが続出する。

自宅の給排水パイプを詰まらせたり、隣家との境界柵を壊す。さらにドーンが働き始めると折れた枝が屋根に倒れ掛かり、ドーンが新しくできた恋人と子供たちを連れキャンプに出掛けると細い枝葉で家全体を侵食する。ゴムの木の異常な成長は、恋人を作ったドーンに対する父の嫉妬なのか。父はゴムの木を通じて怒りを訴えようとしているのか。夫婦仲が非常に良かった事実は示唆されるが、一方でシモーンにとって父の思い出は腕時計くらい。そのあたりもう少しキャラクターを掘り下げるエピソードがないと、彼らに共感できない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

もはや災厄ばかりもたらすゴムの木は切り倒すしかない。シモーンだけは、この木こそがパパが生きた証とばかりに、強硬に反対し、枝の上に立てこもる。ここでも、ゴムの木に象徴される父娘の忘れ難い過去が披露されるわけでもなく、感傷的な出来事は何も起きない。家族の歴史は何気ない日常の積み重ね、劇的なことはなくても親の心は確実に娘に伝わっているといいたいのかもしれないが、その思いは映像からは感じられなかった。。

オススメ度 ★★

↓公式サイト↓