こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

真夜中のゆりかご

otello2015-03-24

真夜中のゆりかご EN CHANCE TIL

監督 スザンネ・ビア
出演 ニコライ・コスターワルドー/ウルリク・トムセン/マリア・ボネヴィー/ニコライ・リー・コース/リッケ・メイ・アンデルセン
ナンバー 66
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

錯乱した妻を宥めるために芽生えた出来心を抑えきれなかった。秘密が守られればうまくいくはずだった。ところが、事実を隠ぺいし嘘を重ねるうちに、思わぬところから破綻する。物語は、わが子の死体を他人の赤ちゃんと無断で交換した男が罪の意識に苦悩する姿を描く。夜泣きする子に精神が蝕まれていく美しい妻とおむつも替えてやらない若い母親、上質な中流の暮らしと希望なき貧困層の日常。格差社会を象徴する2つの家庭を通じ人間の愚かさを突き詰める過程はあくまでミステリアスだ。そして、繊細で濃密な感情をとらえた映像と丁寧な語り口は、その根底に愛をしのばせることで怒りや憎しみよりもあたたかさを感じさせる。

刑事のアンドレアスはジャンキーのアパートで育児放棄された乳児を発見、同じくらいの月齢の息子を持つ彼は他人事とは思えない。後日、アンドレアスの息子が突然死し、妻・アナが眠っているうちにジャンキーの子と取り換える。

アナは赤ちゃんの死を受け入れられない。当然血のつながらない子にも拒否反応を示すが、アンドレアスの行為が自分のためと知って落ち着きを取り戻す。一方、ジャンキーの男は、同棲相手が赤ちゃんの違いに気づいているにもかかわらず聞く耳を待たず、挙句に誘拐をでっち上げて死体を処分してしまう。捜査の担当となったアンドレアスは真相に背を向けジャンキーを尋問するが、隠し通さなければならないと思いつつ発覚するのを期待している。保身と呵責、良心と葛藤するアンドレアスの胸の内が痛々しいまでに切実だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

さらにアナが赤ちゃんを残して自殺、アンドレアスの息子の死体も見つかると、事件は意外な展開に舵を切る。真実の重みに耐えかねていたのはアンドレアスだけではなかったのだ。本当に裁かれるべきは誰なのか、いやそもそも他人を裁ける人間などいるのか。映画の問いかけは、見る者の心に深く突き刺さる。あの赤ちゃんがやさしい子供に成長していたのが救いだった。

オススメ度 ★★★★

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