こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

カツベン!

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活動写真の興行がやってくる。弁士になりすました男が村中の人々をスクリーンにくぎ付けにしている間に泥棒たちが有力者の家に忍び込み、金品・現金を盗みだす。上映が終わるころにはトラックで逃走、警察が来る前に姿をくらましている。映画がまだ娯楽の王様だった1920年代、こんな窃盗団がいたとは初めて知った。物語は、サイレント映画末期、活動弁士を夢見る若者の青春を追う。“伝説の弁士” の口舌は完コピできるほど練習した。でも今は窃盗団の片棒を担いでいる。そんな状況に嫌気がさした主人公は、心機一転映画館の雑用係からやり直す。厳しい下積み生活、商売敵の台頭、思いがけず巡ってきたチャンス、そして過去の呪縛。断片をつぎはぎして映写機にかけたフィルムに即興で解説を入れる機転は大いに笑い楽しめた。

大金を持ち逃げした俊太郎は靑木館で働き始める。そこで憧れていた弁士・山岡の落ちぶれぶりに落胆し、代わりに茂木の人気ぶりに目を見張る。だが、茂木は隣町の橘館に引き抜かれる。

橘の手下はかつての窃盗団のボス。偽名で靑木館の弁士となった俊太郎を今も彼は探している。橘はあの手この手で靑木館をつぶそうとするが、そのたびに靑木と俊太郎、山岡の活躍で何とか切り抜ける。その間、俊太郎は幼馴染だった梅子と顔を合わせるが、お互いに外見が変わっている。最初はわからなかったのに、子供のころの癖を覚えていてどちらともなく気づいていたことを明かす。“感動の再会” といった大げささが一切ない演出が粋だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

間抜けな警官、踏み抜いた床、壁に設えられた引き出し、ドアと壁を突き破る巨漢、ペダルのない自転車等々、登場人物の大袈裟なアクション・リアクションは無声映画の喜劇を意識している。ところが、現代のテクノロジーで撮影されたそれらのドタバタ劇からはまったく面白さが伝わってこない。やはり映画で描かれている現実部分と活動写真の部分は分けて考えるべきだった。当時の風俗習慣ファッションが詳細に再現されていただけに残念だった。

監督  周防正行
出演  成田凌/黒島結菜/永瀬正敏/高良健吾/音尾琢真/竹中直人/渡辺えり/井上真央/小日向文世/竹野内豊
ナンバー  296
オススメ度  ★★


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家族を想うとき

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やっと見つけた仕事は、個人事業主というのは名ばかりの労働搾取。それでも妻子のためと早朝から夜までハンドルを握る。物語は、フランチャイズの宅配ドライバーになった男が家族との絆を失っていく過程を描く。失業中は子供たちの話も聞いてやれた。生活保護を受給するのはプライドが許さない。ところが自分の力で人生を立て直そうと頑張れば頑張るほど、妻や息子・娘との間に溝ができてしまう。さらにのしかかるローンの返済と制裁金。長時間拘束に日常はとげとげしくなるばかり、けれど立ち止まるわけにはいかない。全編に漂う息苦しさとやるせなさ、明るい将来をまったく想像できない張り詰めた映像は、胸を締め付けられるような切なさを伴う。トイレ用のペットボトルが不幸な未来を暗示する。

配送センターの請負業務を始めたリッキーはバンを買うために妻・アビーのクルマを売る。雇い主に文句も言わず精勤するリッキーだったが、高校生の長男・セブが暴力事件を起こし停学になる。

配送ルートやスケジュールは携帯スキャナーで厳密に管理されていて、例外的な行動は筒抜け。やがてセブの学校の校長から呼び出されても面談に間に合わず、アビーの介護ワークにも支障をきたす。もはや仲の良かった一家の心はバラバラ、だが小さな収入を得るためにリッキーは小包を運び続ける。このままでは破綻するのは明白、にもかかわらず目を背け、希望を信じている。気は短いが曲がったことや犯罪行為には絶対に手を出さないリッキーのモラルの高さ、それは彼自身が自らに課した、人間らしく生きるための最後の防壁なのだ。配達を積極的に手伝う利発な娘の笑顔がわずかな救いだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後も負のスパイラルは深度を増し、リッキーもアビーも子どもたちも限界。正しいと思ってやってきたのにいつしか家庭は崩壊している。そして初めて非を認めるリッキー。なのに、非を認めたからこそ彼は己を罰するように働こうとする。自己責任というにはあまりにも重すぎる現実は正視しているのがつらかった。

監督  ケン・ローチ
出演  クリス・ヒッチェン/デビー・ハニーウッド/リス・ストーン/ケイティ・プロクター/ロス・ブリュースター
ナンバー  298
オススメ度  ★★★*


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https://longride.jp/kazoku/

ジュマンジ ネクスト・レベル

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なりたいキャラになるはずが、まったく期待外れの能力しかないキャラになってしまった。一方で万能の鉄人になったのは足腰の弱ったおじいちゃん。現実とは共通点のないアバターに転生した彼らは、今回も世界を救うために、いや、自分たちが無事帰還するために死力を尽くす。物語は、いわくつきのビデオゲームに引きずり込まれた若者を助け出すために、友人たちと老人たちもそこに飛び込み、課題をクリアしていく姿を描く。ラスボスは残虐な王、巨大なパワーと悪辣な意思を具えている。彼に奪われた秘宝を奪い返さなければならない。それぞれが長所と弱点を補いあいながら協力、その過程で絆を深めていく。ダチョウそしてマンドリル、凶暴な野生動物が群れになって襲い掛かかってくるシーンは圧倒的なスリル、思考停止になった。

ジュマンジで消息を絶ったスペンサーを追ってフリッジとマーサも突入、だが、エディとマイロの2人の老人も巻き添えを食う。ゲームの中で生まれ変わった4人は各々の設定をチェックする。

頑健な肉体を得たエディはやる気満々。彼との間にわだかまりを抱えるマイロは賢者のように落ち着いている。きっと若い時も先走るエディを抑えるのがマイロの役割だったのだろう。砂漠での難を逃れオアシスに到着した4人は女泥棒になったスペンサーと再会、倒すべき敵・ユルゲンを目の当たりにする。もう寿命が尽きかけているのは自覚している、死ぬのも怖くない。ならば健康な体を手に入れたバーチャル空間でもう一度思いっきり暴れようと張り切る老人たちの、精神的な若返りが共感を呼ぶ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ベサニーとアレックスを加えて6人と1匹になった一行はユルゲンの要塞に忍び込み、彼が持つ秘宝を奪還しようとする。ところが、ユルゲンは頑強で破壊力も抜群。正面からガチンコ勝負を挑んでも勝ち目はなく、知恵と勇気とチームワークで対抗する。老人たちを見ていればわかる、命がけの修羅場を乗り越えた若者たちの友情は、年齢を重ねてもずっと続くと予感させてくれる。

監督  ジェイク・カスダン
出演  ドウェイン・ジョンソン/ジャック・ブラック/ケビン・ハート/カレン・ギラン/ニック・ジョナス/オークワフィナ/アレックス・ウルフ/モーガンターナー/サーダリウス・ブレイン/マディソン・アイスマン/ダニー・グローバー/ダニー・デビート/コリン・ハンクス
ナンバー  297
オススメ度  ★★*


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https://www.jumanji.jp/

イーディ、83歳 はじめての山登り

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愛の冷めた夫に30年も尽くした。娘とは折り合いが悪く、老人ホームにもなじめなかった。ある日思い出した、遠い日に交わした亡き父との約束。物語は、83歳の独居老人が険しい山登りに挑戦する姿を描く。屋根裏から引っ張り出してきたのは埃をかぶった年代物の登山具。現代の道具と比べると生命の危機を覚えるレベルだ。偶然知り合った青年から装備一式購入して見事な “山ガール” !? に変身する過程は、初心者ほど格好から入るのが合理的であると訴える。決して主張を曲げない頑固者のようで急に弱気になったりする。カネに細かいけれど必要な出費は惜しまない。若者に忠告されると、正しくてもへそを曲げる。常に上から目線で相手を見る。そんな扱いづらい老婆をシーラ・ハンコックが好演、老人のワガママをリアルに再現していた。

介護していた夫の死後もロンドンでひとり暮らしをしていたイーディは、思い出の品の整理の途中、父から届いた古い絵ハガキに写っている山への登山を思いつき、スコットランド行きの寝台列車に乗る。

ホームでぶつかってきた地元の青年・ジョニーにホテルまで送ってもらうがあいにく満室、イーディは彼の部屋で一夜を明かす。ジョニーがガイドだと知ると彼を雇い登山に備えたトレーニングを始める。少し不愛想なジョニーとイーディは口論ばかり、それでも打ち解けるうちに互いの身の上話もするようになる。やがてイーディを頂上に立たせるのがジョニーにとっても未来を賭けた戦いになっていく。そのあたり1人では不可能でも2人ならモチベーションも上がると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

紆余曲折を経て単身山に挑む決意をしたイーディはジョニーをふもとに残して歩きだす。草原を歩き湿地帯を越えテントを張って一夜を過ごす。暴風雨に襲われて山で迷う。岩場で意識を失ったりもする。そのたびに運命に身を任せていると、何かが、誰かが助けてくれる。ずっと不幸だった人生も捨てたものではないと思い直す彼女の表情は、山頂から眺める絶景のごとく晴れやかだった。

監督  サイモン・ハンター
出演  シーラ・ハンコック/ケビン・ガスリー/ウェンディ・モーガン/エイミー・マンソン/ポール・ブラニガン
ナンバー  282
オススメ度  ★★★*


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http://www.at-e.co.jp/film/edie/

私のちいさなお葬式

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いつ心臓が止まってもおかしくないと宣告された。ひとり暮らしの家で倒れた。なのに、息子は病院まで迎えに来るとすぐに仕事に戻ってしまった。物語は、死期を悟った老婆が己の葬儀の準備に奔走する姿を描く。流行りの生前葬ではない、まだ生きているのに死んだことにして息子に余計な手間を取らせないようにしたい。ところが、戸籍上で “死ぬ” には死亡を証明する書類が必要。時間は有り余っている彼女は体が動くうちにすべてを整えようと役所に出向き、棺を買い、最後の晩餐の用意をする。だが望んでいる穏やかな死はなかなかやってこず、彼女の焦りは募るばかり。一方で知人にもらった鯉は旺盛な生命力を発揮する。天寿が近いヒロインと本能で生き残ろうとする鯉、2つの対照的な命がこの世に生を受けた意味を問う。

退院後、息子のオレクに自宅まで送ってもらったエレーナは、よそよそしいオレクの態度に失望する。もうオレクに迷惑はかけまいと思ったエレーナは自身の死亡届を提出しようとする。

エレーナは小さな村で教師として定年まで勤めあげ、今は年金生活者。教え子たちが村中にいる。遺体安置所で働く教え子を言いくるめて死亡診断書の偽造を頼み戸籍係に除籍してもらう。彼女の申し出に目を丸くしていた戸籍係が、書類がそろったとたんにあっさりと受理する。そのペーパー至上主義は社会主義時代の硬直した官僚制度の名残なのだろうか。願いが叶って公式に “死んだ” と認定されたエレーナは、雷に打たれようとしたり隣人に自殺ほう助依頼したりするが、そう簡単には死にきれない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、戸籍係とのかみ合わない会話を始め、本来コミカルなタッチにすべきところがたくさんあるだが、まったく面白くなかった。その後、連絡を受けたオレクが駆け付け、彼との間でまたひと悶着ある。しかしその過程も共感できる部分が少なく、笑いにまで昇華されていない。やっぱり日本人とロシア人とはユーモアのセンスが違うのか、「恋のバカンス」がこれほどロシアでもポピュラーとは驚きだったが。

監督  ウラジーミル・コット
出演  マリーナ・ネヨーロワ/アリーサ・フレインドリフ/エヴゲーニー・ミローノフ/ナタリヤ・スルコワ/セルゲイ・プスケパリス
ナンバー  295
オススメ度  ★★


↓公式サイト↓
http://osoushiki.espace-sarou.com/

MANRIKI

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顔デカ顔デカ顔デカ顔デカ……。ファッション雑誌で小顔特集が組まれ、オーディションでは小顔モデルしか採用されない。物語は、顔が大きいコンプレックスを抱く駆け出しのモデルが「小顔矯正整形」で運命を暗転させていく姿を描く。人の美しさは見かけではなく内面にある。だが外見に自信がないせいで自分の美しさを引き出せないのなら、少しはいじってもいいはず。そんな言葉に納得した彼女が受けたのは、万力で頭部を挟んで頭蓋骨を圧縮する過激な施術。望み通りの小顔になった、しかし皮膚が引き攣れた二目とみられない容貌になってしまった。それでも好きな男に付きまとう女の執念がすさまじい。まるでシュールな悪夢を見ているような浮遊感が全編を覆い、小顔にこだわるヒロインの浅薄な思い込みを強烈に皮肉っていた。

小顔整形のためにイケメン整顔師のクリニックを訪れたモデルは、その場で寝台に縛り付けられ強制的に小顔にされる。施術後、モデルは整顔師に恋をするが冷たく拒絶される。

仕事の依頼が来ないのは顔が大きいせいと決めつけ、他の理由を考えないモデル。その妄信が彼女を追い詰めていくのだが、彼女が感じるデカ顔への恐怖が生々しい迫力で再現される。もはやデカ顔には生きる値打ちもないと確信し、プライドを持ってやっているモデルの仕事が顔の大きさというなかなか変えられないところで決まる現実に不満を隠さない。他人にとっては小さなことでも本人にしてみれば人生を左右するほどの重大事、ところが小顔になると、彼女は己の醜さには言及しなくなる。このあたりの価値観の違い、女心の繊細さが興味深かった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、整顔師は指名手配犯になり逃亡、途中でかかわった美人局と奇妙な共犯関係になる。もはやそのあたりからどういう展開になるか先の予想はまったくつかず、映画は常識の彼我を軽々と飛び越えてしまう。ただ、そこに必然性はなく、“なんか現場のノリで作っちゃいました” 的な緩さが漂っている。もっと小顔願望女の顛末を見たかった。

監督  清水康彦
出演  斎藤工/永野/金子ノブアキ/野替愁平/神野三鈴
ナンバー  294
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
http://crush-them-manriki.com/

ヘヴィ・トリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル!

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背中まで伸ばしたロン毛が俺たちの反骨の証。そう信じて仲間と音楽を続けてきたのに、田舎では馬鹿にされるだけ。物語は、フィンランドの小さな村でヘビメタバンドを組む4人の若者がノルウェーで開かれるフェスに勇躍乗り込む姿を描く。もう12年もやっているのにコピー曲ばかり。ステージに立った経験もない。やっと作詞作曲した新曲もどこで発表していいかわからない。偶然訪ねてきた音楽プロデューサーに希望を託すが返事は来ない。YouTubeなどなかった時代なのだろう、まだ人から人に情報伝達していたころの人間関係の距離感が懐かしくも温かい。大人になるのを拒否した彼らの衝動に任せた無軌道な行動がバカバカしくもうらやましかった。バンドの宣材写真を撮るために取締カメラを使うあたり非常にクールだ。

それぞれ仕事を持ちながら音楽活動をやめられないトゥロ、ロットヴォネン、パシ、ユンキの4人はちんたら練習を重ねる日々。ある日、一念発起してオリジナル曲を完成、新たな一歩を踏み出す。

ロットヴォネンの家に買い物に来たプロデューサーにデモテープを手渡したことを花屋の娘に話すと、いつの間にか噂は村中に広がり、住民のトゥロたちに対する態度が一変する。白い目で見られていたのに一躍ヒーロー扱い、ナイトクラブで歌う羽目になる。地元歌手の前座とはいえ初めてのライブ、しかし直前の凶報のせいでトゥロは気もそぞろ、なんとかマイクの前に立つがが緊張のあまり声が出ない。さらにユンキの死が彼らの青春に終わりを告げる。このあたり、モラトリアム期間を卒業したくない彼らの軟弱な反権力志向を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

だが出来上がった宣材写真を見た彼らは、“便秘でいるよりは漏らした方がまし” と、ダメモトでノルウェーのフェスを目指す。その間のドタバタ劇は快調かつコミカルで、ベタな展開ながらツボを押さえた演出で退屈させない。彼らの暴走はノルウェーのプロデューサーの耳にも入り、その意気を買われる。凶暴な音楽性と彼らのヘタレ具合の対比が新鮮だった。

監督  ユーソ・ラーティオ/ユッカ・ビドゥグレン
出演  ヨハンネス・ホロパイネン/ミンカ・クーストネン/ビッレ・ティーホネン/マックス・オバスカ/マッティ・シュルヤ/ルーン・タムティ
ナンバー  288
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
http://heavy-trip-movie.com/