こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

モンスター MONSTER

otello2004-09-29

モンスター MONSTER

ポイント ★★★★
DATE 04/9/25
THEATER シネマライズ
監督 バディ・ジェンキンス
ナンバー 111
出演 シャーリーズ・セロン/クリスティーナ・リッチ/ブルース・ダーン/
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

醜くたるんだまぶたと二重アゴ、すっかり形が崩れて張りをなくした脂肪におおわれた下腹部、スキンケアなどまったくしていないシミだらけの肌、伸びっぱなしの髪。流しで客を拾う売春婦を演じるためにすっかり変わり果てたシャーリーズ・セロンの姿を見るだけでも、この作品は充分に価値がある。見ているだけで観客が嫌悪感を催すような、肉体のディテールから心の絢まで演じる役になりきる。こういう俳優の姿勢こそ作品に命を与え見るものを感動させる。

ヒッチハイクをしては男に体を売って金を稼いでいたアイリーンはそんな人生に絶望して自殺を考えていたが、セルビーという少女と出会い意気投合する。セルビーもまたレズであるがゆえに家族から見放された身。二人はお互いの孤独を癒すため逃避行を決意、その資金稼ぎのために客を取ったアイリーンは客を殺してカネと車を奪う。そして、二人の逃亡資金と生活費のためにアイリーンは殺人を繰り返すようになる。

男からは射精の対象としか見られず、女からは社会の害虫とみなされる。アイリーンは誰からも愛されることもなく、愛したこともない哀れな女。もちろんそこには自分の身の上におきた不幸はすべて他人のせいにする、甘ったれた気持ちも大きい。殺人を正当化する理由も利己的なこじつけ。それでも売春婦としてしか生きる術を知らなかった女が人生で初めて人を愛する気持ちを芽生えさせ、愛する人のためにカネを稼ぐ。たとえ相手がレズの少女でも、誰かのために生きることでアイリーンの目には光が宿っていく。

しかし、セルビーのほうはアイリーンを利用して現実逃避を図っているだけの小ずるい女。自分では何もしないくせに面倒をみろなどと言い、挙句の果てはアイリーンを警察に売ってぬけぬけとしている。そんなセルビーに対してアイリーンはすべての罪を自分がかぶることで愛を貫く。アイリーンは目に見える大きなモンスター。しかし目に見えない小さなモンスターはセルビーの中にもいる。そしてセルビーが抱えるモンスターのほうが心の中に潜んでいて普段はあまり姿を見せない。セルビーが少しでも贖罪の意思を見せれば救われた気もするのだが、映画はすべての人間の心にある「セルビーのモンスター」を観客に突きつける。この重さにはしばらく言葉が出なかった。


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