こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

天空の草原ナンサ

otello2006-01-12

天空の草原ナンサ


ポイント ★★★
DATE 06/1/5
THEATER シャンテ・シネ
監督 ビャンバスレン・ダバー
ナンバー 2
出演 ナンサル・バットチュルーン/ウルジンドルジ・バットチュルーン/バヤンドラム・ダラムダッディ・バットチュルーン/ツェレンフンツァグ・イシ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


地平線のかなたまで続く草原、どこまでも高い青空。清明な空気をフィルムに焼き付けた映像は心地よい冷たさを感じさせ、厳しいモンゴルの大自然が見せるつかの間の優しい瞬間を、カメラはタイミングよくとらえることに成功している。そして、家畜の乳や肉だけでなく、糞まで再利用する遊牧民の知恵。競争や発展とは無縁な人々の生活を通して、生きるということはもっと素朴で単純なものだと教えてくれる。


モンゴルの草原で家族と暮らすナンサは、ある日子犬を拾う。ツォーホルと名づけ家で飼おうとするが、犬は羊の天敵・狼に似ていると父親は許してくれない。ナンサはツォーホルをこっそりと飼っていたが、放牧先でツォーホルとはぐれ、探しているうちに迷子になってしまう。


子役や犬が名演技で泣かせるわけではなく、押し付けがましい演出や音楽もない。放牧、乳搾り、毛皮剥ぎ、チーズ作りと、映画はあくまで自然体で遊牧民の日常生活を追う。そんな家族を上空から常に見つめているハゲワシの群れ。命がなくなった瞬間にたちまちハゲワシに食い荒らされ骨だけにされるという、生と死の密接な状態を描くことで、生きていくことは他者の命をもらうことであることをいやでも強く意識させられる。


季節は移り、やがてナンサの家族はゲルを解体して牧草地を移動する。末っ子がいないことに気づいた父親はあわててもとの場所に戻ると、捨てたはずのツォーホルが末っ子をハゲワシから守っていた。忌み嫌われていた犬が人間と和解する瞬間。古来からの伝説どおりに犬は人間の敵ではなく友達だとこの作品は語る。しかし、物語のヤマ場がこのシーンだけというのはやはり寂しい。一応劇映画なのだから、もう少しエピソードを編みこむとかストーリーを盛り上げるような展開があってもよかったのではないだろうか。