こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ザリガニの鳴くところ

証拠は薄弱、アリバイもある。証言も被告に有利。なのに町の人々は悪い噂を信じ、警察は犯人と決めつけ、検察も有罪の筋書き通りに裁判を進めようとする。物語は、殺人容疑で逮捕された女の裁判で明らかにされる彼女の半生を追う。転落死体は殺人事件と断定され、現場近くの湿地帯に住んでいたヒロインが疑われる。確かに被害者と容疑者は付き合っていた。そして彼女は人里離れた場所に子供のころから住んでいる。行政の手を借りるのを潔しとはせず、彼女はますます孤立していく。生まれ育った家を離れたくないだけなのに、いつしか彼女は町の人々からモンスターのように思われている。「普通」の人々が「普通」ではない者に対して抱く偏見。共通の認識を持たないマイノリティに対する排除の理論がリアルに再現されていた。

DV父のせいで一家離散したカイヤは、幼少時に町はずれの湿地にひとり取り残される。生きていくためにムール貝を雑貨店に売り、水郷で知り合った少年・テイトに読み書きを教わる。

育児放棄され大人の干渉を拒否していた割には文化的生活を維持し、家の中はきれいに片付いている。人知れず雑貨店夫婦が彼女の面倒を見ていたのだろう、カイヤはやがて美少女に育つ。成長しても社会との接点はテイトと雑貨店夫婦だけ。そんな境遇で生き抜きながら、読書と独学でカイヤは教養を身に着け、抜群の画力で湿地の生き物をスケッチし生態を観察していく。生物観察を通じてカイヤとテイトが心を通わせるシーンは、豊かな自然の中で育まれた愛がきらめきを発散させていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

殺人事件の真相を追う法廷では、カイヤは沈黙を守る。それは自分に対して町の人々がしてきた仕打ちに対する抗議。異端視されていた彼女をもてあそんだ男・チェイスこそが町の人々の象徴で、だからこそ彼らはカイヤにチェイス殺しの罪を着せカイヤを排除したかったのだろう。弁護士はその論理を突く。結局、チェイスの死は事件なのか事故なのかうやむやのままだが、やっぱり検察の見立てが正しかったのか?

監督     オリビア・ニューマン
出演     デイジーエドガー=ジョーンズ/テイラー・ジョン・スミス/ハリス・ディキンソン/マイケル・ハイアット/スターリング・メイサー・Jr./デビッド・ストラザーン
ナンバー     216
オススメ度     ★★★


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https://www.zarigani-movie.jp/