こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サンキュー・スモーキング

otello2006-10-19

サンキュー・スモーキング THANK YOU FOR SMOKING


ポイント ★★★
DATE 06/10/16
THEATER シャンテ・シネ
監督 ジェイソン・ライトマン
ナンバー 178
出演 アーロン・エッカート/マリア・ベロ/ロブ・ロウ/サム・エリオット
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


主人公は相手に反論の間を与えず持論を展開し、いつの間にか自分の主張を納得させるという詭弁のスペシャリスト。タバコという「絶対悪」の擁護のためには映画によるイメージ戦略や情報操作、時には賄賂も厭わない。世論など口先三寸でどうにでも変えることができるという自信のもと、嫌煙派上院議員とも堂々と渡り合う。そしてこの映画の最大の詭弁は、登場人物はタバコ業界の人間かどうかにかかわらず誰もタバコを吸わないこと。にもかかわらずタバコがいかに不健康なものかを切実に歌えることに成功している。


タバコ研究アカデミーという業界団体の広報マン・ニックは、嫌煙団体とのディベートで勝利を収め、今度は映画のワンシーンでスターにタバコを吸わせるシーンを撮らせるためにハリウッドに向かう。そんな中、彼に近づいてきた新聞記者と懇ろになる。


反対意見を逆手に取り自分の意図した結論に落とし込むテクニックは、よく考えると屁理屈や理論のすり替えにすぎないのだが、ニックの話し方や身振り手振りでどうしてもごまかされてしまう。その浅薄さに息子が気づいていて、息子の前では必死でよき父親になろうとしている。そのあたり正直に生きていると胸を張れない男の悲しさが漂うのだが、息子のほうもそのあたりの事情が分る年頃。仕事に対する誇りと少しの後ろめたさを持つ男に、父親の顔を持たせることで鼻持ちならない男という印象を払拭している。


新聞記者にスキャンダルを書かれたニックは広報マンをクビになるが、上院での公聴会を何とかやり過ごす。その過程で、信念を貫く生き方の重要性を説くのだが、そのあたりも説教くさくなりすぎない。見かけよりも中身、言葉よりも行動、というのが本来あるべき姿なのだが、イメージを優先させる米国社会では見かけや言葉で結果が違ってくるという現実をふまえているところに好感が持てた。


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