こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エンロン

otello2006-11-21

エンロン ENRON


ポイント ★★★
DATE 06/10/6
THEATER 映画美学校
監督 アレックス・ギブニー
ナンバー 169
出演 ケン・レイ/ジェフ・スキリング/アンディ・ファストウ/
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


堂々とした押し出し、自信たっぷりの話ぶり、人のよさそうな笑顔、人々はその外見と言葉に騙され、カリスマ経営者の内側に潜む悪に気づかない。無論、本人も自分の経済行為が世の中をよい方向に導いていると信じている。利益という大きな目標の前には倫理など陰に追いやられ、ただカネを生むことだけがよしとされる恐るべき良心の欠如。映画は米国史上最大の破綻劇といわれたエンロン事件を克明に追い、マネーゲームに洗脳された男たちの仮面を剥いでいく。


天然ガス会社を起源に持つエンロンは、レイ、スキリング、ファストウといった重役の指揮の下、規制緩和の波に乗って石油、電力、インターネットと次々に事業を拡大していく。しかし会計上の帳簿操作による見せ掛けの成長で資金を調達するやり方はやがて行き詰まり、不正が暴かれていく。


あらゆる金儲けの手法がエンロン本社のトレーディングルームとそこに直結する重役室で決定される。彼らが見るのはただ数字だけ。次々と法や規制の網の目をくぐりぬけ自社の株価を吊り上げるアイデアを練る。圧巻はカリフォルニア州の発電設備を独占した上に、電力供給を減らして電気料金を吊り上げた事件。まさしく自由化の弊害で、このような社会的インフラを人質に取るような方法が許されるはずがないにもかかわらず、エンロン社員は儲けに目がくらみいささかも悪びれた様子はない。不正に対する感覚が麻痺した人間の皮相な笑顔が印象的だ。


やがて不正経理が発覚、会社は破産する。自社株が無価値になった上、年金まで失った一般社員と、暴落前に売り抜けた重役たち。そこでもレイやスキリングは自分たちだけは助かりたいと狡猾に立ち回る。カネという魔物に魂を奪われた男たちが自己保身に走る姿は滑稽だ。米国司法がこのような不正には厳罰をもって臨むところにわずかに救われた思いがする。それにしてもナレーションやインタビューなど話し言葉による情報量が圧倒的に多く、その展開の速さについていけないシーンが多い。イラストやチャートで見せる工夫がもう少しあれば、エンロン事件に馴染みの薄い非米国人でも理解できただろう。


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