ボビー BOBBY
ポイント ★★★
DATE 06/12/21
THEATER ヤクルトホール
監督 エミリオ・エステヴェス
ナンバー 225
出演 アンソニー・ホプキンス/デミ・ムーア/イライジャ・ウッド/シャロン・ストーン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
ベトナム戦争撤退、抑圧や貧困・差別のない社会、自由と民主主義の危機。それはイラクの泥沼にはまり新たな貧富の格差を生んだ現・ブッシュ政権が支配する現代への警鐘だ。今、米国民の何パーセントかはロバート・ケネディ=ボビーのような力強い言葉と行動力を持った勇気ある若い大統領を切望しているのだろう。映画は、ボビーが銃弾を受ける前の16時間、事件が起きたホテルに居合わせた人々を描くことで、いかに彼に人気があったかを描く。しかし、ボビー自身はニュース映像の演説だけで、彼に何の思い入れもない外国人が見てどれだけ感情移入できるだろうか。
'68年6月5日、大統領指名選挙で大勝したボビーが遊説に訪れるアンバサダー・ホテルの従業員はあわただしく働いていた。厨房、美容院、電話交換室、ロビー、カフェ、客室、さまざまな場所で人の数だけ人生が交錯する。彼らはみな心の中で悩みや葛藤を抱えていた。
総勢22人もの人間がボビー暗殺というクライマックスの瞬間に向かって、自分に与えられた役割をこなしていく。ただ、野球の試合を楽しみにしていたのに差別主義者の上司に超過勤務を命じられたメキシコ人と、ベトナム送りを逃れるために偽装結婚をするカップル以外のエピソードは、単なる個人的な出来事に過ぎず、ボビーが大統領になったからといって政治的に解決できるような問題ではない。アンソニー・ホプキンスやヘレン・ハントなど何のために出てきたのか不明だし、ローレンス・フィッシュバーンもえらそうな説教を垂れるだけ。ボビー銃撃の瞬間に向かって登場人物の運命が収斂していくという構成を取らなければ、大スターの出演も無駄ではないか。
それとも、市井の人々が心の痛みなど、ボビーの死の前では些事に過ぎないということだろうか。ホテルの支配人が厨房マネージャーを差別主義を理由にクビにするが、その一方で電話交換手を愛人にしているという人間の裏表を描くエピソードもこれだけで、他の登場人物に深みはない。それでもボビーがテレビの中で語る言葉が圧倒的なパワーを持って迫ってくるのは、彼の描いた理想が永遠に色あせないものだからだ。