こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

女帝 エンペラー

otello2007-06-06

女帝 エンペラー


ポイント ★★
DATE 07/6/3
THEATER TOHOYK
監督 フォン・シャオガン
ナンバー 109
出演 チャン・ツィイー/グォ・ヨウ/ダニエル・ウー/ジョウ・シュン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


深い緑にいろどられた竹やぶの中でたおやかに舞う白仮面白装束の男たち。優雅で軽やかだが暴力の前では無力、次々に暗殺部隊の剣に血祭りにあげられる。以後も剣を交えた攻防はすべて舞踏のような動きと様式美にこだわり、その美しさと幻惑するようなカメラワークには目を見張らされる。しかし、そこで描かれる復讐譚は登場人物の深い悲しみや怒りを描いているわけでもなく、何らかのメタファーも見出せず、ただただ展開のゆるいエピソードが繰り返されるだけ。中国人独特の世界観や哲学を織り込んでいるわけでもなく、やがて舞踏を模した殺陣も見飽きてくる。


中国・五代十国時代、兄から帝位を奪った皇帝は皇后・ワンと結婚、皇太子・ウールアンの暗殺を謀る。ワンとウールワンはかつて恋人同士の仲、密かに宮中に戻ったウールワンはワンと再会する。


父の復讐や「人の心こそ最高の毒」といった、シェークスピア劇のエッセンスを中国舞踊を取り入れて映像化する、その試み自体は斬新なのだが、きちんとしたストーリーが用意されていないので、舞踊で表現される人間の感情がまったく生かされていない。唯一、ワンとウールワンが再会したときに見せる短剣をめぐっての攻防だけは、相手を傷つけようとしながらも愛そうとするかのような憎しみと喜びの入り混じった複雑だが美しいシーン。このシーンはチャン・ツィイーの身体能力を表現力の豊かさをまざまざと見せ付ける。


しかし、このヒロインに決定的に欠けるのが新たに夫となった新皇帝への復讐心だろう。杜撰な計画で毒殺しようとするが失敗、結果的には皇帝も帝位を狙う家臣もウールアンも死に、自分が皇帝になるのだが、そもそも彼女自身が望んだ地位ではなく、何をすべきか分からない。しかも、彼女もまた程なくして暗殺されてしまうのだ。背中から剣に貫かれたワンがいまわの際に見せた、額に太い血管を浮き上がらせて般若の形相こそ、女としての幸せをついぞ手に入れることなく息絶える彼女の生への怨念。そこだけが際立っていた。


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