こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

酔拳 レジェンド・オブ・カンフー 

otello2011-06-28

酔拳 レジェンド・オブ・カンフー 蘇乞児

ポイント ★★*
監督 ユエン・ウーピン
出演 チウ・マンチェク/ジョウ・シュン/アンディ・オン/ジェイ・チョウ/ミシェル・ヨー
ナンバー 101
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


まるでヒップホップのように宙を跳ね、床で回転し、思わぬ角度とタイミングで拳を放ち脚を飛ばす。緩急自在、しなやかに相手に連打を浴びせた次の瞬間には、予期せぬタメを作って攻めのリズムに不協和音を交えてタイミングをはずす。物語は、そんな予測不能な酔っ払いの動きをカンフーの必殺技に昇華した男の有為転変の人生を追う。軍を率いて戦場を駆け巡ったプロローグ、復讐のために武術鍛錬に励む中盤、そして酔拳の創始者となる終盤まで、それぞれ趣向を変えて描く。中国武術とは、単に肉体的トレーニングのみならず、気を高め、哲学的思考を伴って初めて身につけることができるのだ。


戦乱の世、親王を救出したスーは手柄を義兄のユアンに譲って隠居するが、五毒蛇拳という邪拳を身に付けたユアンに実父を殺された上に毒拳を受け川に落ちる。ユ医師に救われたスーはヒゲ仙人と武神の下で武術修業を始める。


冒頭、忍者風のいでたちで奇襲をかける場面は剣と手裏剣が荒々しく飛び交い、幻覚の中で武神に鍛えられるエピソードは水墨画と神仙思想を融合させた幽玄の美、スーとユアンの決闘は達人同士の息詰まる駆け引きと攻防と、映画はスーの運命が辿る変遷に合わせて格闘シーンの表現方法を変化を持たせ、彼の武術家としての成長を追う。CGとワイヤーを効果的に使い、流麗な動きは独特の世界観の構築に成功している。


◆以下 結末に触れています◆


ス―はユアンを倒し仇を打つが、妻を失って失意の日々を送りながら国境の街に流れつく。そこで、白人レスラーが中国人武術家をなぶり殺しにするショーに参加して、完成させた酔拳で白人たちと闘う。彼らとのデスマッチは中国人同士の戦いには見られなかった、肉が歪み骨がきしむフィジカルな痛みを伴うリアルな描写。それは近代化と植民地化によるナショナリズムに目覚めた中国の歴史と重ね合わせているのだろう、この部分の転調は少し戸惑うが、それでも最後までアクションの波状攻撃をやめないサービス精神に満ちた作品だった。