ポイント ★★*
DATE 07/6/25
THEATER 渋谷TOEI1
監督 降旗康男
ナンバー 124
出演 妻夫木聡/香川照之/西田敏行/赤井英和
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
平和な時代だからこそ、仕事がなくても高望みさえしなければ生活に困ることはなく、それなりに楽しく暮らしていける。もちろん少しは現状に対してあせりは感じているが、それでも自分で何とかしようという意思もない。そんなぬるま湯の日常から、フリーターのような若侍がいかにして自分の人生に目標と意義を見出していくか。不幸をつかさどる神に取り憑かれ、一度どん底にまで落ちることでやっと自分から行動を始める。普通の人間は、変わらざるを得ない状況になって初めて変わるのだ。
幕末の江戸、養子先から離縁され職もなく怠惰な毎日を送っていた彦四郎は、神社で出世を祈願する。しかし、その神社から遣わされたのは貧乏神、疫病神、死神。彦四郎はさまざまな不幸に見舞われる。
京で起きている革命の風は確実に感じている。何かをしなければいけないと思っているのに何をしていいのかわからない。そんな彦四郎は貧乏、病気、そして死と真正面から立ち向かうことで意志を固めていく。貧乏・病気は他人に振ることでうまく逃れたが、その過程で自分が徳川慶喜の影武者になることで、死だけはしっかりと自分で受け止める決意をする。そこに彦四郎の成長を見ると共に、限りない命だからこそ志に生きることが大切なことに気づかせる。
しかし、その心境に至るまでが回りくどく、逆に決意してからの展開が性急すぎる。しかも映画は、のうのうと生きてきた彦四郎に使命を与えたとたん彼を死なせてしまうのだ。自分の行為に対する責任感と、志のために死ぬというのが武士の本懐という気持ちが芽生えたということなのだろうが、生きるべき目標を見出したのならばもう少し彼を生かして何かを成し遂げさせるべきだろう。結局、彦四郎は水戸に逃げた徳川慶喜の代わりに砲弾に当たってあっさりと死ぬ。最期は開祖以来の役目を果たして死んだのだから本望だろうが、命の大切さに目覚めた割には命を粗末にしているのはどうしたことだろう。最後まで無責任に生きた彦四郎の兄のほうがよほど魅力的だった。