こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

イースタン・プロミス

otello2008-06-13

イースタン・プロミス EASTERN PROMISES


ポイント ★★★★
DATE 08/3/14
THEATER 映画美学校
監督 デヴィッド・クローネンバーグ
ナンバー 64
出演 ヴィゴ・モーテンセン/ナオミ・ワッツ/ヴァンサン・カッセル/アーミン・ミューラーシュタール
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


血には血を、暴力には暴力を。のどを一直線にかき切る凄惨な報復と裸の肉体がぶつかり合う格闘シーンは、強烈なリアリティをかもし出す。一方で、失意のうちに息絶えた少女が残した子を巡る愛。死が日常の世界に住む男たちが、赤ちゃんという生を目の当たりにして、わずかに残った良心に気付く場面が救いをもたらす。非情の世界に身をおきながらも、得体の知れない不気味さの奥に潜む鋼鉄の意志を持つ主人公を演じたヴィゴ・モーテンセンが圧倒的な存在感を示す。


ロンドンの助産師・アンナは出産直後に死んだ少女の日記を手に入れる。そこに残された名刺の店はロシアマフィアが経営するレストラン。そこでアンナはニコライという運転手に目をつけられる。


体中に彫ったタトゥーが履歴を物語るというロシアマフィアの伝統。ニコライの体には彼の裏社会での経歴を象徴するさまざまな模様が刻まれ、最後に彫られた胸と膝の星印で正式なメンバーになったことの証だ。それを目印に襲い掛かる2人の殺し屋と全裸で戦うニコライ。筋肉にナイフが食い込んでも決してひるまず、洗練された体術で返り討ちにする。肉が裂け骨がきしむ、息が詰まるほどの痛みが伴う生々しさ。ニコライの生きてきた暴力の世界を見事に表現する。


映画は少女の日記の内容をアンナが知るという過程を通じて、ロシア人の売春組織の実態を暴いていく。組織内での齟齬からニコライがボスに切捨てられるが、逆にニコライが組織を乗っ取ろうとする展開の裏で、彼自身がロシアの潜入捜査官だったという驚き。さらに流産経験のあるアンナと日記に記された少女の心情、そして赤ちゃんを殺せなかったボスの息子など、新しく生まれてきた無垢な命への思いが、終始ミステリアスな雰囲気を持つこの作品に最後で安らぎを与える。生理的な不快感を与えながらも理路整然と積み重ねられたエピソードと、陰鬱な中に人間の感情を鋭く切り取る映像は、見る者の心に、恐怖とその先にある希望をダイレクトに響かせる力を持っていた。


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