ふたつの部屋、ふたりの暮らし

世界はふたりだけのもの。そう思っているかのように彼女たちは視線を絡ませ唇を重ね体を寄せ合ってステップを踏む。誰よりも信頼できる相手との至福のひと時に身をゆだねる姿はどこか物悲しい。物語は、老境を迎えたレズビアンカップルの愛を描く。アパートの同じ階でずっと暮らしていた。部屋は別だから、仲のいいご近所さんを装って隠しおおせていた。だが、片方が要介護状態になったとき、ふたりを取り巻く状況が決定的に変わる。脳機能の低下で話せない。顔からは喜怒哀楽が消える。さらに息子と娘の無理解がふたりの仲を引き裂いていく。性的な多様性は認めつつも、いざ自分の母親が同性愛者だと知った息子と娘は強烈な拒否反応を起こす。やはり肉親が同性愛の当事者になると冷静ではいられない、そんな彼らの反応がリアルだった。
ニナとマドはお互いの部屋を行き来する恋人同士で、近々アパートを売ってローマで余生を過ごす計画を立てている。ところが、マドが脳梗塞で倒れ、一命は取り留めたものの重篤な障害が残る。
退院したマドは自室に戻るが、介護士が24時間張り付いている。ニナは、深夜に合いカギでマドの寝室に忍び込んだりする。マドは、顔の筋肉をまったく動かせないため意思表示ができず自由が奪われていく。彼女の気持ちを知るニナはなんとか近づこうとするが、かえって疎ましがられる。だが、マドはしゃべれないけれど意識があり、言葉は聞こえている。ニナや介護士、娘や息子の会話を耳にすると、マドは目玉の動きだけで感情を表現するが、彼女の思いはニナにだけ届いている。なのに、ニナとマドの意思を無視して事態はどんどん進んでいく。無力感にさいなまれながらも育てた愛をつなげようとするふたりの心が切ない。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
マドは娘たちによって老人ホームに収容される。もうお互い以外何もいらないというふたりの思いが娘にも伝わるシーンは、幸福とは何かを教えてくれる。前半、決して美しいとは思えなかった老女同士の恋は、いつしか至高の輝きを放っていた。
監督 フィリッポ・メネゲッティ
出演 バルバラ・スコバ/マルティーヌ・シュバリエ/レア・ドリュッケール/ミュリエル・ベナゼラフ/ジェローム・バレンフラン
ナンバー 68
オススメ度 ★★★★
↓公式サイト↓
https://deux-movie.com/