こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

白いリボン 

otello2010-10-09

白いリボン DAS WEISSE BAND


ポイント ★★★*
監督 ミヒャエル・ハネケ
出演 ウルリッヒ・トゥクール/ブルクハルト・クラウスナー/ヨーゼフ・ビアビヒラー/ライナー・ボック/スザンヌ・ロタール/ブランコ・サマロフスキー
ナンバー 238
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


静かな村の日常を揺るがす小さな邪心、水槽に墨汁を滴らすごとく黒い点は薄く広がり周囲を毒していく。次々に発生する奇妙な事件、映画は語り部の主人公=観客と共に真相と犯人を追う。しかし、そこで明かされていくのは事実ではなく、背景となる村社会の仕組みと家族の掟。荘園経営に四苦八苦する貴族、搾取される小作人、大きな影響力を持つ教会と牧師、そして大人には絶対服従を強いられる子供たち。整然としているのにどこか歪んでいる、そんな人々の心の闇を研ぎ澄まされたモノクロームの映像が浮かび上がらせる。


男爵が支配する村でドクターが落馬して大けが、現場には針金が仕掛けてあった。翌日、小作人の妻が製材所で事故死する。収穫祭の日、小作人の長男は男爵夫人のキャベツ畑を荒らし、直後男爵の息子が暴行される。


物語は教師の目を通して語られるが、彼は他の村から来たよそ者で、おそらく何百年も続いている男爵家に対する村人の複雑に入り交じった感情を理解していない。さらに戒律の厳しいプロテスタント教会の影響力、本来尊敬されるべき地位のドクターの性癖などが暴かれていくにつれ、村を覆う邪悪な空気がスクリーンを通して伝染してくるかのような不気味で不愉快な感覚にとらわれる。


◆以下 結末に触れています◆


牧師の息子が鞭打たれたり、男爵家の納屋が家事になった翌朝小作人が首を吊っていたり、ドクターが自分の娘にいかがわしいことをしているところを幼い息子に見とがめられてあわてて言い訳したりと、その他あらゆる場面で「何か不快なこと起きているのに結果を見せない」という手法で見る者のイマジネーションを刺激する。一方で、ドクターが愛人にしていた助産婦に対して辛辣な言葉を口にした後、彼女の知恵遅れの息子が傷つけられていたりする。誰もが誰かに対して「悪意」と「嫉妬」を抱いていて、事が起きても「無関心」を決め込むか「暴力」で対応する。男爵夫人が夫に浴びせた捨て台詞に凝縮されたこの村の真実、それはあらゆる人間の心に潜む邪な部分だと、ハネケ監督はすべての観客の目の前に突きつけているのだ。