こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

デザート・フラワー

otello2010-11-17

デザート・フラワー Desert Flower


ポイント ★★★*
監督 シェリー・ホーマン
出演 リヤ・ケベデ/サリー・ホーキンス/ティモシー・スポール/ジュリエット・スティーブンソン/クレイグ・パーキンソン/アンソニー・マッキー
ナンバー 269
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


期限の切れたパスポートを手に、残飯をあさり軒下で夜露をしのぐ少女。行き場はないが逃げ場もない状況で、生きていこうという意志は強固だ。大きな夢を持っているのでもなく、ただ苦痛ばかりの人生に戻りたくないだけ。豊かではないが平和で長閑な故郷の暮らしは、それほどまでに絶望的なのだ。いまだに女が男の所有物のように扱われる悪しき習慣、一応は自由で開かれた世界で成功するなか、ヒロインはアフリカの闇を告発していく。人は希望があれば戦える。そして戦う理由が理性と良心に叶ったものならばたとえ少しずつでも社会を変えられる。彼女の姿からはそんな決意が感じられた。


ソマリア遊牧民の娘・ワリスは父が決めた結婚を嫌がって首都に逃げ、伝手をたどってロンドンに渡る。政変で身分を失った彼女はホームレスになるがマリリンというダンサーに救われ、バイト先でファッションカメラマン・テリーにスカウトされる。


長い手足と野性的な風貌でたちまちトップモデルに駆けあがるワリス。その過程で不法滞在に問われ、仲間やエージェントの助けで切り抜ける。さらに偽装結婚までして滞在資格を得ようとする。そのあたりは移民問題を扱った作品で散々描かれているが、先進国の搾取の対象になっていない彼女はむしろ恵まれている。ところが、セックスに興じるマリリンに「女のたしなみ」を説き、お互いにパンツおろして性器を見せ合うシーンから一変、映画のテーマは彼女の「現在」ではなく「過去」にあるのが明らかになっていく。


◆以下 結末に触れています◆


ワリスは外陰部を切除され膣口を縫合される、いわゆるFGMの“被害者”。しかしソマリアでは、女が幼い時に手術を受けるのは当たり前で、当事者たちも疑問に思っていない。ワリスはロンドンに来て初めて「普通はそんなことはしない」と知るわけだが、21世紀になってもなおこの風習が広く残っている背景には文化的要素よりも無知が支配しているから。少女たちは非衛生的な環境で恐怖に絶叫しながら麻酔もなしに剃刀で切り取られ、その部分は忌むべきものとして捨てられ鳥のえさになる。なによりこの非人間的な行為を全世界に知らしめたワリスの勇気に感銘を受けた。