こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

その街のこども 劇場版

otello2010-12-11

その街のこども 劇場版


ポイント ★★★
監督 井上剛
出演 森山未來/佐藤江梨子/津田寛治
ナンバー 291
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


家族に先立たれた者、友人を失った者、住む家をなくした者……。突然襲った大地震は一瞬にして人々の日常を破壊した。15年後、すっかり復興した新しい街には悲劇の傷跡はもうみあたらない。それでも、いまだ気持ちの整理がついていない者も大勢いる。震災を生き延びたふたりが、かつて炎に包まれ瓦礫の山となった街を彷徨する道中、くすぶっていた思いを口にする。初対面の赤の他人だから話せるトラウマ、そして正直に打ち明けることで過去を振り返り現在の自分を見つめ直す。ふたりの会話で構成される一夜の物語には彼らの人生が濃厚に凝縮されていた。


1月16日、新幹線に乗っていた勇治はふいに新神戸で下車する。改札口で知り合った美夏と意気投合、ふたりは三宮から御影までの道のりを徒歩で往復する。当時まだ子供だったふたりは震災後に引っ越し、それ以来初めての神戸だった。


ふたりはお互いの記憶を手繰り寄せ、なぜ今まで神戸を避けてきたか語る。父が震災特需でボロ儲けして地元に居づらくなった勇治。親友が死に悲嘆にくれるその父親と顔を合わせられない美夏。懐かしいのに恨めしい、戻らなければと思いながら決心できない。彼らは10年以上も胸にしこりを残したまま過ごし、いつかはケリを付けなければ新しい一歩は始まらないと、やっと神戸に足を踏み入れたのだ。子供から大人に成長してあの頃の自分を客観視できるようになるまでの時間のいかに長いことか。映画はふたりの言葉を通じて、時が癒してくれる悲しみと決して解決できないことを鮮明に色分けする。


◆以下 結末に触れています◆


身近に死者が出た美夏よりも、父のがめつい商売のせいで友だちから口をきいてもらえなくなった勇治のほうが過酷な体験だったはずだ。天災という不可抗力が原因ならば被災者遺族の心中は想像もつくが、他人の足元を見るという父親の強欲で肩身の狭い思いをした勇治の切なさはいかばかりだったろうか。ある意味、地震被災者よりも複雑にねじ曲がった感情に押しつぶされていたに違いない。勇治にはきっといつまでも追悼式に出る気分になれないだろう。誰からも同情も理解もされない勇治こそ、生き残った者の中ではいちばん地震の爪痕を深く刻んでいる、そして一生背負っていかなければならない。阪神大震災はそんな苦悩も生んでいたことをこの作品で初めて知った。