こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

弥生、三月 -君を愛した30年-

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走り出したバスを強引に止め乗り込む。それは運命に流されるのではなく、自分の力で未来を引き寄せると宣言する行為。物語は、高校時代に知り合った一組の男女が紆余曲折を経験しながらも初恋を成就させようとする姿を描く。女は正義感が強く曲がったことは大嫌いだった。男は楽天的でいつも周囲を明るくしてくれた。だが、彼らの人生が輝いていたのは十代のころまで。大人になって挫折を知り、努力してもうまくいかない事例の方が多いと学ぶうちに、彼らは純粋な気持ちをすり減らしていく。それでも相手への想いはくすぶったまま、時間を経ても色あせない。3月に起きた出来事だけを切り取ってつなぐ構成はいささかぶつ切り感があるが、それぞれのエピソードにヤマとオチを持たせる工夫で最後まで飽きさせなかった。

エイズ感染した親友・さくらをかばってクラス全員を敵に回した弥生に、サッカー部のエース・太郎は惹かれ始める。弥生も、さくらの代理で太郎に接近するうちに彼の天真爛漫な魅力に気づく。

ほどなくさくらは亡くなるが、それを機にかえってふたりは距離を縮める。ところがお互いに好きなのに、さくらへの遠慮から告白できず、卒業式の別れ際に仄めかすにとどまる。その後、別の道で各々の夢を追っていても連絡は取りあい、“親友” としての交際は続けている。結婚、破局、停滞、絶望、再生。さまざまな事件が彼らを襲うがそのたびにさくらの墓に報告するふたり。もういないからこそ心の中で生きている。さくらに見守られている自覚が彼らの希望となる展開は、死は決して終わりではないと教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

中年になり、もはやふたりとも大志を抱けなくなっている。震災後、過去を捨てた弥生。そんな弥生にさくらの遺言を渡すためあてもなく東京の街を探しまわる太郎。その間、坂本九ヘレン・ケラーといったわかりやすい伏線が効果的に繰り返され、ふたりを導いていく。ただ、出会いから34年、あまりにも長くこじれたプレ恋人期間にもどかしさを感じずにはいられなかった。

監督  遊川和彦
出演  波瑠/小澤征悦/成田凌/黒木瞳/杉咲花
ナンバー  61
オススメ度  ★★*


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