こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

最後の忠臣蔵

otello2010-12-25

最後の忠臣蔵


ポイント ★★★*
監督 杉田成道
出演 役所広司/佐藤浩市/安田成美/笈田ヨシ/山本耕史/伊武雅刀
ナンバー 304
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


先に逝った者たちは主君のかたきを取った“忠臣”と称えられているのに、「生きよ」と命じられた者は辛く厳しい現実と対峙しなければならない。そんな、死ぬべき時に死なせてもらえなかった侍たちの苦悩はいかばかりか。使命を果たさねばという忠心、自分だけ生き残った負い目、直面する難題。映画は、吉良邸襲撃計画に参加しながらも切腹を免れたふたりの男の、「その後の人生」を追い、武士として忠義を全うするプライドと哀しみ、そしてそれを頑固に曲げない男の美学を描く。


四十七士唯一の生存者・吉右衛門は、大石内蔵助に吉良邸で起きた仔細を赤穂浪士の遺族に伝え、生活の面倒を見よと申し渡されていた。16年を経てすべてを終え、京に身を寄せていると、討ち入り前夜に逐電した孫左衛門を見かける。孫左衛門は人里離れた庵で可音と呼ばれる若い娘と暮らしていた。


吉右衛門に託されたのは、いわば赤穂浪士側の「広報マン」という表の任務。一方、孫左衛門は大石の隠し子を見つけ出して人目を忍んで育てる極秘のミッション。吉右衛門が皆に感謝され労われるのに、孫左衛門は名誉を回復したとはいえ罪人の娘の保護者。かつての仲間からは裏切り者と罵られ、しかし、真実は誰にも話せない。大石の命令を完遂するのが己が道と定める孫左衛門には、口惜を甘んじて受け入れても、誇り高き死を遂げるための避けて通れない道。彼の決意は「武士道」を見事に体現していた。


◆以下 結末に触れています◆


可音に一目ぼれした豪商の息子との仲を取り持つ孫左衛門は、彼女をきちんと嫁入りさせるのが大石の願いを叶えることと、赤穂浪士十七回忌を機に縁談をまとめる。孫左衛門の思いがやがて元藩士に伝わり、花嫁駕籠が長い行列になっていくが、それは大石の人徳や浅野内匠頭を思う藩士以上に孫左衛門の信念が認められた瞬間だ。主人の下半身スキャンダルの後始末でさえも運命と、愚直に勤めあげた彼の生きざまはすがすがしかった。ただ、婚礼の夜に切腹しては、せっかくの祝賀ムードが台なしで可音が悲しむではないか。やはり彼も「赤穂の忠臣」と誰かの記憶に残りたかったのだろう、その気持ちだけは人間らしくて共感できた。。。