こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

神々と男たち

otello2011-01-20

神々と男たち DES HOMMES ET DES DIEUX


ポイント ★★★
監督 グザヴィエ・ボーヴォワ
出演 ランベール・ウィルソン/マイケル・ロンズデール/オリヴィエ・ラブルダン/フィリップ・ローダンバック/ジャック・エルラン
ナンバー 12
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


清貧を旨とし、質素で静かな食事を口にしていた修道士たちは、その夜だけは大いに食べ、ワインのグラスを傾け、楽しげに語り合う。何を話しているのかはわからない、だが覚悟を決めた清々しい笑顔は徐々に酔いが回るにつれ、涙ぐむ者、眉根をひそめる者、物思いにふける者と、己の人生を振り返り、最後の選択に間違いはなかったかどうかを反芻するような憂いを含んだ表情になっていく。神にささげた身、たとえ殺されても使命を果たすことに意義を見出す彼らの篤くかたい信仰、一方でどこか現世に対する未練を垣間見せる、そんな修道士の人間的な姿が胸を打つ。


アルジェリアの山間にあるカトリック系修道院では、8人の修道士が地元のイスラム系住民に溶け込み平和に暮らしている。しかし内戦が勃発し、イスラム系テロリストがキリスト教徒を襲う事件が頻発、修道院にもテロリストがやってくる。


カメラは、戒律を守り、讃美歌を唱和し、肉体労働に励み、人々に奉仕する修道士の禁欲的な日常生活を細部までとらえる。静謐かつ厳粛、判で押した毎日の中に神への感謝をあらわそうとする。医師だけは地元民と交流し少女の恋愛相談に乗ったりしている。欲望を消すのはすなわち天国に旅立つ準備、一方でテロリストの襲撃に備えて逃げるべきか命の危険に直面しても留まるべきか意見が分かれる。修道士のリーダーが答えを求めて山野を彷徨するシーンが、神に仕える身の在り方を象徴しているようだった。


◆以下 結末に触れています◆


日々祈りを捧じている彼らは、神の奇跡など信じていないはず。それでも十字架を仰ぎ帰依を示し、殉教という結果に終わっても彼らは神の御心として運命を受け入れる。雪霞の先に消えていく修道士たちの後姿は、まさに神のもとに赴くかのごとき荘厳さを伴っていた。彼らにとって神とは、自らの死をもって理性と感情を完結させた後、そこから始まる新たな何かなのだろう。それはきっと美しいもの、だからこそ彼らは闇にむかって粛々と行進するのだ。