こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ショパン 愛と哀しみの旋律 

otello2011-03-06

ショパン 愛と哀しみの旋律 DESIRE FOR LOVE

ポイント ★★
監督 イェジ・アントチャク
出演 ピョートル・アダムチク/ダヌタ・ステンカ/ボジェナ・スタフラ/アダム・ヴォロノヴィチ
ナンバー 15
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ハートがとろけるような甘いメロディから激情を鍵盤に叩きつける力強い旋律まで、喜怒哀楽をピアノで表現するショパン。芸術家がパトロンなしでは生きていけなかった時代、年上の女流作家の庇護と寵愛を受けながら作曲に励んでいく。しかし、映画は彼の音楽家としての創作の苦悩や葛藤よりも、愛人とその子供たちとの関係を通じて天才の孤独を描こうとする。自分と音楽を愛せても他人は愛せない、その一方で他人に甘える術に長けている、名曲の陰に隠された作曲家の実像は人間的な魅力に乏しかった。


故郷・ポーランドを捨ててパリに出たショパンは売れない日々に悶々とする。あるサロンで、リストの計らいで自曲を披露すると大好評を得、流行作家のジョルジュ・サンドから熱烈な恋文が届く。そして、肺炎にかかった時、献身的に看護したジョルジュに心を開いていく。


その後、二児を連れて離婚したジョルジュはショパンマヨルカ島に誘う。そこでの奇妙な共同生活、ジョルジュの長男・モーリスは母親が若い男を囲っていることに不快感を隠さない。ショパンもまた才能がないのにアーティストを気取るモーリスを嫌っている。ショパンとジョルジュは一流同士、ある種の共通認識を持つがモーリスはその境地には達していない。ジョルジュには、女として、母として、作家としての三重の懊悩がのしかかる。このあたりから、物語はショパンの音楽的バイオグラフィから離れ、ひたすら女たらしの一面を追う。


◆以下 結末に触れています◆


さらに数年後、ショパンは成長したジョルジュの娘・ソランジュに手を出すだけでなく、メイドとも寝ている様子。それが原因で母娘も険悪になってしまう。確かにその指先から生まれるメロディは人々の心を魅了し、その病弱で繊細な風貌は女心をとらえて離さないのは理解できる。だが、彼がジョルジュ親子になした仕打ちは近親憎悪という不協和音をかき鳴らしただけ。そんなショパンの放蕩ぶりをもっと深く掘り下げれば新しいショパン像が楽しめたが、カメラはそこまで踏み込まない。結局中途半端な作品になってしまった。