こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

バビロンの陽光

otello2011-03-19

バビロンの陽光 Son of Babylon


ポイント ★★★*
監督 モハメド・アルダラジー
出演 ヤッセル・タリーブ/シャーザード・フセイン/バシール・アルマジド
ナンバー 65
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


岩だらけの荒涼とした大地、破壊されたまま放置された建物。戦争の傷痕がまだ色濃い荒廃した国を、老婆と少年は南へ向かう。老婆にとってはかけがえのない息子、少年にとっては記憶にない父と会うために。12年前に消息を絶ち生きている可能性はほとんどないが、きちんと確かめるまではあきらめられない。ふたりの道行はわずかな望みに縋る旅でもあり、過去に決別する旅でもある。映画はフセイン政権崩壊直後のイラクを舞台に少数民族という微妙な立場の祖母と孫が辿る行程を通じ、親が子を思う心と子が親に抱く理想、そして彼らを見つめる人々の視線を描く。


クルド人のアーメッドは祖母と共に湾岸戦争時に行方不明になった父・イブラヒムの身柄を引き取るためにナシリアに向かう。ヒッチハイクとバスを乗り継いでイブラヒムがいるはずの旧刑務所に到着するが、そこに彼はいなかった。


遺骨だけでもと、アーメッドと祖母は共同墓地を訪ね名簿を調べるが、イブラヒムの名は見つからない。彼は反フセイン派として逮捕・弾圧されたのだろう。当然、墓地の管理は杜撰で身元の分かる遺体は少ない。そんな中、アーメッドらはムサという男と知り合ってイブラヒム探しを手伝ってもらう。ムサはかつてクルド人虐殺に加担した経験があり、せめてもの贖罪の意識がふたりの目的を叶えさせようとする。国土はズタズタになっているのに、助けあいの気持ちは残っているイラクの人々の優しさがあたたかい。


◆以下 結末に触れています◆


ヒッチハイクで乗せてもらったトラックの運転手は吹っ掛けた料金を返すし、タバコ売りの少年やバスの乗客も余裕がある時は親切。他の人々も、祖母の話すクルド語が分からないと冷たいが、何を欲しているかが分かると親身になってくれる。アーメッドと祖母の道程は無常と絶望に満ちている。それでもイスラムの厳しい戒律ゆえか、盗んだり騙したりする人間がいなかったのは、この救いのない物語に一条の希望の光をもたらしていた。