こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

漫才ギャング

otello2011-03-22

漫才ギャング

ポイント ★★★
監督 品川ヒロシ
出演 佐藤隆太/上地雄輔/石原さとみ/綾部祐二/秋山竜次/新井浩文/宮川大輔/笹野高史
ナンバー 68
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


まるで早口のコントを見ているがごとき軽快なテンポで繰り広げられる若手芸人の物語には、お笑いの世界の楽屋裏とほろ苦い青春が凝縮され、映画自体が壮大な漫才の様相を呈している。偶然の出会いから人生を変えようとする決意、夢に向かってチャレンジする情熱、暴力と挫折、ささやかな恋。映画は芽の出ない漫才師が新しい相方を得て新たにやり直す過程を通じ、努力の大切さを真正面から取り上げる。いささか強引な展開は、計算されたボケだけでなくなにげなく放たれたボケに対しても瞬時にツッコむ反射神経が必要とされる漫才のツッコミ役同様、観客のツッコミを入れるセンスを試しているのだ。


売れない漫才師・飛夫は相方に解散を告げられて泥酔、留置場で目覚める。同房者・龍平の、さりげない会話でも的確にツッコミを入れてくるタイミングの良さに目を付けた飛夫は、龍平にコンビを組もうと誘う。2人は夜の公園で練習を重ね、勝ち抜きお笑い大会に出場する。


飛夫と龍平の初対面シーンから軽妙な言葉が交わされ、そのアホらしさの中にも笑いの真髄が含まれているセリフの数々は、もうそこだけで短い漫才として成り立っているほどの質の高さ。お笑い芸人とはこれほどまでに常に言葉の持つ魔力を意識し、それを相手から引き出して普遍的な笑いに昇華させる技術に長けているものかと思わず身を乗り出してしまった。また、借金取りを演じた宮川大輔はトレードマークの黒ブチ眼鏡をはずし、カネにはシビアだが情には厚い男をベタなギャグ連発で演じているが、暑苦しくなる一歩手前で抑えることで強烈な印象を残している。


◆以下 結末に触れています◆


その他にもオタクやデブ、刑事やチンピラグループといった個性的なキャラを飛夫と龍平の周りに効果的に配し、人間関係がすっきりと整理されているところが分かりやすくてよい。そして、映画そのもののオチも半分は予想通り、半分は意外というように、観客の期待に沿いつつも少し裏切る絶妙の塩梅。映像から迸るエネルギーは2時間20分近い上映時間の長さを感じさせなかった。