こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

グランド・マスター 

otello2013-05-03

グランド・マスター 一代宗師

監督 ウォン・カーウァイ
出演 トニー・レオン/チャン・ツィイー/チャン・チェン/マックス・チャン/ソン・ヘギョ
ナンバー 104
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

篠突く雨の中、ひとりで十数人を敵に回する男。飛び散る水飛沫に逆光が反射し明暗のコントラストが際立つ。男女の達人同士が拳を交える場面では、息の合ったダンスのごとく突きを受け蹴りをかわし宙に舞い、接近した顔が相手の心を読みあう。格闘をテーマにしながら荒々しさとは無縁、力強さやスピードではなく、各流派の特徴的な技を繰り出す瞬間の優雅で流麗な身のこなしにフォーカスした映像は、カンフーアクションをアートの高みにまで昇華したうっとりするほどの美しさ。映画は、混乱期の中国で武術界の統一を図る達人たちの活躍を追う。そこで描かれるのは彼らの超人的な強さと人間的な弱さ。“自分を知り、世間を知り、人生を知る”という言葉に象徴されるように、武術とは己との果てしない対話なのだ。

1936年、北派拳の宗師・宝森は武術界の南北統一を図るため南派詠春拳の葉問と戦い、葉問を次世代のリーダーに指名する。一方、宝森の娘・若梅は単独で葉問に挑み父の雪辱を果たすが、葉問に対し尊敬以上の念を抱いてしまう。

だが対日戦の激化で、日本軍への協力を拒む葉問は困窮し、若梅も武道を捨てる。破門された宝森の一番弟子・馬三だけは日本軍に付きうまく立ち回っている。このあたり、いかに拳法の達人といえども戦争の大きなうねりには抗えず、もはや武芸者として生きていける時代の終焉を物語る。実用性を失った武術など金持ちの道楽に過ぎないことを、戦争が彼らに教えていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

内戦終結後、香港に移り住んだ葉問は道場を開き若梅と再会、再びふたりの間には特別な感情が生まれ、カメラは彼らの繊細な心の動きを丁寧に掬い取る。果たせなかった約束、届かなかった思い、若梅の気持ちを葉問は察するが、それ以上には進まない。そのしっとりとした質感はまるで恋愛映画だ。そして葉問に弟子入りしたひときわ機敏な少年。結局、この映画のすべてはブルース・リーへとつながっているのだ。構成も展開も饒舌とは言い難いが、強烈な印象を残す作品だった。

オススメ度 ★★★★

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