周囲は断崖絶壁、ポツンと切り取られた台地に上に残された小さな集落に通じるのは1本の細い橋しかない。中世の修道院さながらの街並みに現代の人々が住んでいる。そんな “天空の村” を舞台にしたことがこの作品のクオリティを数段高めている。物語は、故郷の村で結婚式を挙げようとするゲイカップルの葛藤を描く。法律では認められているが、両親や村人に理解されるか不安だった。幸い母は賛成してくれた。だが父は頑なな態度を崩さない。一方で、教会の代理人である修道士は時代の流れと大歓迎、ビジネスチャンスととらえる観光業者もいる。拍子抜けするほど物分かりのいい人々とは対照的に、人権派を標榜する村長でもある父が反対する構図がリベラルの本質を衝いていた。信仰深いイタリアでここまで同性婚への意識が進んでいるとは。
婚約者のパオロを両親に紹介するために実家に連れ帰ったアントニオ。同性婚を打ち明けると、父は席を立つが母はこの村で結婚式を挙げさせると言う。条件はパオロの母を出席させることだった。
”他人事のうちは寛容でいられるが身内に起きると許せない” という父の本音に対し、アントニオとパオロについてきた奇妙な2人組が頓珍漢な言動で微妙にはぐらかしていく。母も、本心は納得していないが、アントニオたちを叱咤することで自らの偏見を抑え込み理性的であろうとする。自分の遺伝子を受け継いだ孫の顔が見られないのは寂しい、それは我が子が同性愛者になった親が持つ自然な感情。そこをどう折り合いをつけていくか、アントニオの両親が格好の見本となってくれる。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
その後もアントニオの元恋人が乱入してきたり教会が火事になったりするが、なんとか挙式にこぎつける。ミュージカルなんか嫌いだと言っていた父がいつしかノリノリになっているシーンは、人の心をひとつにする「歌の力」を象徴していた。深刻な問題をコミカルに処理した演出は非常に後味がよく、恋に落ちる相手の性別は個人の性的し好を優先すべきというテーマが心地よく受け入れられた。
監督 アレッサンドロ・ジェノベージ
出演 クリスティアーノ・カッカモ/サルバトーレ・エスポジト/モニカ・グェリトーレ/ディエゴ・アバタントゥオーノ/エンツォ・ミッチョ
ナンバー 19
オススメ度 ★★★