こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ラビット・ホール

otello2011-10-19

ラビット・ホール RABBIT HOLE

ポイント ★★★
監督 ジョン・キャメロン・ミッチェル
出演 ニコール・キッドマン/アーロン・エッカート/ダイアン・ウィースト/サンドラ・オー
ナンバー 238
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


身近な人々の気配りが癪に障り、慰めの言葉が非難に聞こえる。己を責めぬいた揚句、もうこれ以上傷つきたくないと防衛本能が他人の些細な言動に過剰反応し、つい彼女を攻撃的にしてしまう。自分の胸中を分かってほしい、でも誰にも理解できるはずがない。そんな繊細なヒロインの心情を、ニコール・キッドマンは時に感情を爆発させてリアルに演じきる。世界中の悲しみをひとりで背負っていると思い込んでいて、確かに同情の余地はあるのだが、むしろイヤな女を演じて現実から逃避しようとする姿が痛々しい。


交通事故でひとり息子・ダニーを亡くしたショックからいまだ立ち直れないベッカは、妹の妊娠を喜べず、夫のハウイーと共にグループセラピーを受けても馴染めない。ある日、町でダニーを死なせた少年を見かけ、密かに後をつける。


なんとか過去と折り合いをつけようとするハウイーや実母、家族の言葉尻をいちいち上げつらい、議論を吹っ掛けるベッカ。その、回りを不愉快にする負のオーラは、なぜか少年の前では抑制されている。何度も尾行し声をかけようとするが、何を話したらよいかわからない。ところがいざ対面すると、少年こそがすべての不幸の原因なのに、彼女は恨みや怒りをぶつけるどころか、彼の謝罪に対して心を開いてしまうのだ。そして、少年もまたダニーの命を奪ったことで深く傷つき我が身を責めている。ベッカが初めて同じ思いを共有できた相手が加害者だった皮肉が、ままならない人生を象徴している。


◆以下 結末に触れています◆


少年が描くコミックのパラレルユニバースは、すべての家族構成が両親と子供一人。それは、別の次元ではダニーは生きているという少年の願い。さらに、同じく息子に先立たれた実母の心中を知るにあたって、ベッカはやっと周囲の人々の気持ちを察するまでに回復する。どんなに重い喪失感や後悔の念もやがて時が軽くしてくれる、ベッカが控え目な笑顔を見せるシーンに、ほんの少しだが未来への希望が感じられた。