フラメンコ・フラメンコ FLAMENCO FLAMENCO
ポイント ★★★
監督 カルロス・サウラ
出演 サラ・バラス/パコ・デ・ルシア/マノロ・サンルーカル/ホセ・メルセー/ミゲル・ポベダ
ナンバー 280
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
哀切を帯びたかすれ声からコーランの朗唱のようにこぶしを効かせた歌声、情熱的なステップから全身をくねらせて誘惑するダンス、ギターを爪弾く超絶的技巧から鍵盤をたたく指先の力強さ、そしてリズムを刻む手拍子と足踏み。ジプシー風のメロディからイスラムの技法まで巧みに取り入れたスペインの伝統音楽は一つのジャンルにカテゴライズしきれないほど多様な顔を見せ、感情を表現する。喜びと悲しみ、希望と絶望、苦悩と再生、愛と死。映画はフラメンコという音楽ジャンルのあらゆるスタイルを一流のアーティストのパフォーマンスで紹介する。
巨大な倉庫のようなホールのステージに並べられた、古典派から近代までの様々な特徴を持った絵画の間を縫った先に整列するアーティストたちが歌いだす。それは魂の自由を歌い上げる賛歌。その後もカメラの前でフラメンコの代表的な楽曲が演奏されていく。
ピアノを弾く時は大胆、ギターを弾く時は繊細、踊る時はパワフル、歌う時はもの悲しげ。男たちは常にセクシーで自信に満ち溢れたオーラを発散させている。ドレスを激しくはためかせフェロモンを振りまいたかと思うと男の視線を拒絶してじらし、時に愛を乞い夢を語る。女たちはいつも官能的で挑発し続ける。結局、フラメンコを歌い踊り奏でる者は、男も女もみな恋をしているのだろう。異性に対してだけではない、木々の緑や空の青・海の碧といった自然から、生まれてきた奇跡・生きている幸福といった人生そのものへの感謝といとおしさ。だからこそ悲しい歌も美しく響くのだ。
◆以下 結末に触れています◆
もちろんこの作品を見たくらいでフラメンコの神髄に触れたことにはならない。だが音楽に身を浸して動きに目を凝らし、飛び散る汗とほとばしるパッションを体感すればその輪郭はフラメンコの素人にもはっきりと見えてくる。ここで描かれているのはフラメンコの魅力の一部でしかないのかもしれないが、それでもライブを見に行きたくなる気持ちにはさせてくれた。