こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

人生スイッチ

otello2015-06-18

人生スイッチ RELATOS SALVAJES

監督 ダミアン・ジフロン
出演 リカルド・ダリン/リタ・コルテセ/ダリオ・グランディネッティ
ナンバー 140
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

モデル、音楽評論家、教師、友人、元上司etc. 旅客機に乗り合わせた乗客は全員ひとりの男を知っている。そして彼らは皆、過去にその男に対してひどい仕打ちをしていた。偶然なのか周到な計画なのか、逃げ場のない空の上で乗客たちは徐々にこの機に招待された理由を察知していく……。映画はそんなミステリー風の密室劇をはじめ6つのエピソードで構成される。そこで描かれるのは突然常識や良識の箍が外れ暴走してしまう人々のリアルな心情。日常生活で起こる些細な出来事が抑えていた鬱憤を爆発させる過程がコミカルに再現され、軽妙なカタルシスを味あわせてくれる。復讐や苛立ち、不平不満、貪欲と裏切り、それらを含んだ“怒り”という感情が物語の根底に通奏低音のごとく流れ、気の利いたオチをつけることで、一線を越えるにはそれなりの覚悟が必要とくぎを刺すのも忘れない。

父を死なせた高利貸しと再会したウエイトレス、蛇行するボロ車に罵声を浴びせるアウディ男、駐車取り締まりに業を煮やした爆破技師、息子のひき逃げ隠ぺいを図る父、結婚式で新郎の浮気を責める新婦。彼らには予想もしない運命が待っていた。

交通量の少ない一本道をノロノロ走るクルマ。先に行かせてくれればいいが、後続車のフラストレーションを見透かすようにスピードを上げない。追い越しざまに悪態をつくアウディ男の気持ちがよくわかる。また、駐車違反除外地域で愛車をレッカー移動され手数料と罰金を徴収される技師の憤りは、駐車監視員の恣意的な摘発にあった日本人なら理解できるはず。裏で警察とレッカー会社が結託しているあたり、高額な駐車料を設定しているコインパーキング一帯が重点監視地域になっている東京と同じ構図だ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

登場人物はみな等身大の人々、ふとしたきっかけで見る者も彼らと同じ境遇になるかもしれないと思わせる。そのあたりの繊細な心理描写がディテールに富み、いつの間にか彼らに共感してしまった。

オススメ度 ★★★*

↓公式サイト↓