こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

源氏物語 千年の謎

otello2011-12-13

源氏物語 千年の謎


ポイント ★★
監督 鶴橋康夫
出演 生田斗真/中谷美紀/窪塚洋介/東山紀之/真木よう子/多部未華子/芦名星/蓮佛美沙子/室井滋/田中麗奈
ナンバー 294
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


艶めかしい満月の下で睦みあう男女の衣擦れの音、極彩色の衣装に身を包んだ女房・女官、笙や笛が奏でる優雅な旋律、簾越しに語り合う恋人たち、貴族趣味に満ちた豪勢な屋敷、そして四季折々の自然が見せる強烈な色彩。上流貴族社会を再現した映像は時にため息が出るほどビビッドだ。映画は権力者に、帝を虜にする物語を著せと命じられた女房が、自らの境遇と登場人物の人生をシンクロさせるうちに次第に物語の魔物に憑りつかれていく姿を描く。だが、創作の秘密と「源氏物語」の世界が有機的にリンクせず、「恋に落ちたシェイクスピア」のような知的興奮は得られなかった。


藤原道長の下命で執筆に当たる紫式部は、出来上がった章から順に帝や女官の前で公表する。美男の皇子・光源氏が真実の愛を求めて彷徨するストーリーはたちまち宮中の話題をさらうが、六条御息所の生霊が人殺しを始めるあたりに差し掛かると、陰陽師安倍晴明紫式部に凶相を見る。


女房・女官たちを演じる女優たちの美しさはこの作品に華を添え、「源氏物語」が貴公子の女遍歴を綴ったものではなく、こんな男と情を交わしたいという女たちの願望であったことを物語る。それは寡婦となって藤原家に仕えていた紫式部とて同じ、なかば軟禁状態で筆を執り、言い寄る男は道長のみの状況で寂しさを胸に抱いていたに違いない。自分も、誰もがうらやむ美男に身を委ねたい、そんな欲望が紫式部にとってエネルギーの源だったのだろう。


◆以下 結末に触れています◆


ところが、カメラは紫式部の胸中には踏み込まず、また光源氏の物語もいつしか怨念渦巻くホラーになってしまう。結局、紫式部道長に対する秘めた思いに焦点を当てるでもなく、宮中の権謀術数渦巻く権力争いもあっさりとふれるのみ。「源氏物語」の各エピソードも、ただあらすじをなぞっているだけで新たな解釈があるわけでもない。何を言いたかったのかよくわからない、中途半端な世界観のとらえどころのない作品だった。


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