こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

汽車はふたたび故郷へ

otello2012-02-29

汽車はふたたび故郷へ CHANTRAPAS

オススメ度 ★★★
監督 オタール・イオセリアーニ
出演 ダト・タリエラシュヴィリ/ビュル・オジエ/ピエール・エテックス
ナンバー 49
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

“変人なのかアホなのか”、常人には計り知れない感性と創造性こそ芸術家の命。理解を越えた作品を発表し続けた結果、そう呼ばれるのはむしろ勲章だ。一方で、一歩間違えれば自己満足の陥穽に落ちることにほかならない。物語は映画に己の思想と情熱を投影しようとする若者が権力に干渉され、信念を貫こうと旅立つが、そこでも商業主義の壁に行く手を遮られる姿を追う。幼なじみ3人だけの上映会で、咲き乱れる花をトラクターが掘り返した上にローラーで踏み固める映像には、自由に表現できない息苦しさが凝縮されていた。

旧ソ連時代のグルジア、少年時代からカメラに親しんでいたニコは成長して映像作家になるが、彼の映画は当局から公開禁止にされる。さらに逮捕・暴行されたため、パリ行きの列車に乗る。

ところがパリでも映画作りは難航、プロデューサーに編集権を取り上げられたり、やっと完成にこぎつけても観客にそっぽを向かれる。その過程でニコが苦労するのは、創作のインスピレーションやイマジネーションではなく、撮影所というシステム。もちろん彼を応援してくれる人もいる、しかしニコの作家性よりも現状を変えたい思いが強いように見える。肥った男が花束で女を口説こうとするが、自転車に乗った男がもっと大きな花束を女に渡すと、彼女はあっさり自転車の荷台に乗るニコの映画のワンシーンは、より自分を大切にしてくれる方に女もアーティストもなびくと言いたかったに違いない。

◆以下 結末に触れています◆

結局、パリでも相手にされなかったニコは故郷に戻り、川に現れた人魚と行動を共にする。それはニコの難解で高尚なアートが地上では受容されなかった現実の比喩。そして緩慢なテンポと説明を一切省いたエピソードの数々は、その隙間を埋めるのには豊かな想像力が必要だ。つまりこの『汽車はふたたび故郷へ』に感銘を受けなかった観客は、劇中の検閲官やプロデューサー同様、イオセリアーニ監督からバカのレッテルを貼られているのだ。

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