こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

愛と誠

otello2012-05-24

愛と誠

オススメ度 ★★★*
監督 三池崇史
出演 妻夫木聡/武井咲/斎藤工/大野いと/安藤サクラ/前田健/加藤清史郎/一青窈/余貴美子/伊原剛志/市村正親
ナンバー 126
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

喧嘩に明け暮れる孤独な主人公に純愛を捧げる可憐なヒロイン、'70年代の若者なら己の理想を投影する憧れとなっていたであろう彼らの生き方は、今や古臭くてナンセンス。それをよく理解した上で時代のエッセンスを抽出し再構築された映像は、サイケデリックで暴力に満ち、ひたすら生真面目なのに、ツッコミどころ満載で思わず吹き出してしまう。映画はかつて命を救ってくれた不良高校生を更生させるべく彼にまとわりつく少女を通じて、“愛”や“自己犠牲”の本質に迫っていく。その、「我こそは正義」と信じ込む彼女の姿は痛々しさを通り越して笑いの対象でしかなく、結局他者への思いやりなど所詮は自己満足に過ぎない事を喝破する。

東京に出てきた誠は新宿で不良と大乱闘を演じ少年院送りになるが、彼を白馬の騎士と慕う愛は父のコネを使って釈放させ、自らが通う名門私立高に編入させる。しかし誠の素行は改まらずすぐに退学、ツッパリ・スケバンばかりが集う荒廃高に転校、愛も後を追う。

愛の誠に対する気持ちは、もちろん純粋に彼を愛し立ち直らせようとするもの。だが、世間知らずなお嬢様の彼女は、自分の思いを誠に押し付けるだけでまったく周りが見えていない。そんな一途な愛は迷惑な存在でしかなく、ひとつ間違えばストーカーだ。一方の誠も孤高を貫いているが、現代なら彼もまた友だちがいない寂しい男。いつも誰かと繋がっていたい、仲間と力を合わせて目標に向かうといった21世紀の高校生の意識からすれば、ふたりとも常軌を逸した変人だろう。もはや彼らの心情やセリフはコメディとしてしか成立しえないのだ

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

さらに、転校先のスケバン・ガム子や悲しい女・由紀、怪力の権太らが入り乱れ、収拾がつかなくなる。それでも作品の持つ不思議なパワーは決して衰えることなく世界観は色あせない。これぞまさにリ・イマジネーション、懐かしい名曲の数々も効果的に使われていた。

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