こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ローマ法王の休日

otello2012-06-28

ローマ法王の休日 HABEMUS PAPAM

オススメ度 ★★★
監督 ナンニ・モレッティ
出演 ミシェル・ピッコリ/イエルジー・スチュエル/レナート・スカルパ/ナンニ・モレッティ/マルゲリータ・ブイ
ナンバー 152
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

記名を前に“どうか自分が選ばれませんように”と胸の中で呟く枢機卿たち。10億人を超すカトリックの指導者という重責に耐える自信はない。さらに、常に他人の目にさらされ死ぬまで自由は奪われる。そんな思いが投票の行われる礼拝堂に充満し、なんとか逃れようと祈る彼らの姿が滑稽だ。物語は新しいローマ教皇に選出された男が突如職務を放棄し、市井の人々と触れ合ううちに己の深層心理に気づく過程を追う。神父の立場で長年信者の懺悔を耳にしてきたであろう彼が本音を打ち明ける友人すらいない孤独、セラピストが下す診断の皮肉、神に捧げた身であっても心は普通の人と変わらない主人公の苦悩に深く共感した。

教皇の逝去に伴いコンクラーベが開かれるが、規定票数を得たのはまったく下馬評になかったメルヴィル。しかし、メルヴィルは就任演説の直前にパニックになり、精神科医のカウンセリングを受けることになる。

多数の枢機卿が見守る中での心理療法は効果がなく、事情を知らないセラピストに分析してもらうためにメルヴィルは街の精神科医を訪ねる。帰路護衛を振り切った彼は人ごみにまぎれてつかの間の開放感を味わう。そこで見つけたのは電車で世間話をし、歌を楽しむ、無名の市民のありふれてはいるが充実した人生。そしてその体験は久しく法服を脱いでいなかったはずのメルヴィルに若き日の夢を思い出させる。稽古中の役者が口にする「かもめ」のセリフがすらすらと口を突いて出てくるシーンに、彼がいかに演劇を愛し俳優になりたかったかがしのばれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

確かにメルヴィルは困難に背を向け、無責任の誹りは免れない。一方で他の枢機卿たちも高位の聖職者らしく見えるのは冒頭の聖者の名を唱えながら行進する場面くらいで、コンクラーベ中に観光に出かけようとしたり、バレーボールに興じたりと、見識の高い堅物的なイメージとは程遠い。なによりガチガチの原理主義者ではなく、世知に長けた感情豊かな人間として描いたところに、バチカンに対する親近感を覚えた。

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