こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

3つの鍵

交通事故を起こした息子に心を消耗させる夫婦、多忙な夫を家で待ち続ける新米ママ、ひとり娘にいたずらされたと思い込む男とたしなめる妻、そして疑いをかけられた老夫婦と彼らの孫娘。同じアパートに住んでいるが、それぞれに葛藤を抱えて暮らしている。物語は、4組の家族に起きた悲劇を描く。平和だった日常がふとした弾みで歯車が狂いだす。突然出現した受け入れがたい出来事の前に、男たちはうろたえ、怒り、絶望する。女たちは耐え、頭を高速で回転させ、前に進もうとする。もう過去には戻れない。だが前に進むには踏ん切りをつけなければならない。父、母、夫、妻、息子、娘。立場は違い濃淡もあるけれど、みな一様に苦悩する。現実は思うように運ばないことばかりだけれど、困難は時に人間を成熟させると訴える。

夫が出張中のためひとりで産科病院に向かったモニカの前で、飲酒運転のアンドレアが歩行者をはねて死なせる。アンドレアは裁判官の父に子供のころから反感を抱いていた。

向かいの部屋に住む老人に娘を預けて出かけたルーチョは、老人と娘が夜の公園で保護されたことに疑念を抱き、老人に暴力をふるう。ところが、事情を知らない老人の孫・シャルロットがルーチョを誘惑する。必死でよそよそしい態度を取ろうとするルーチョの理性が一転して崩壊するシーンには男の悲しい性が凝縮されていた。ルーチョは老人の妻や娘から仕返しとばかりに訴えられるが、裁判所が常識的な判断を下したことは救いだった。近所だろうが血縁者であろうが、一度感情をこじらせると双方が意地になり憎しみ合う。そんな人間の愚かさと哀しさがリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

時は流れ、夫婦も親子も以前とは同じではいられない。不幸な出来事が重なったときもあった。憎しみ恨んだときもあった。それでも、年齢を重ねることで過去の解釈が変わってくる。あの日、なぜあんなことをしたのか? それともしなかったのか? ふとした瞬間に明かされる語られなかった事実が、寛容さと賢明さを身に着けるには人生は短すぎると教えてくれる。

監督     ナンニ・モレッティ
出演     マルゲリータ・ブイ/リッカルド・スカマルチョ/ アルバ・ロルバケル/アドリアーノ・ジャンニーニ/エレナ・リエッティ/アレッサンドロ・スペルドゥーティ/ステファノ・ディオニジ/デニーズ・タントゥッキ
ナンバー     175
オススメ度     ★★★★


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