こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

グレース・オブ・ゴッド 告発の時

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大人になっても決して癒えない、幼い心に刻まれた傷。自分が悪かったのではないかとひとりで苦悩し、親に打ち明けるまでに何年もかかった。勇気を振り絞って話してもまともに取り合ってもらえず、やがて時間と共に真実はうやむやにされていく。物語は、神父による性的虐待を告発する人々の戦いを描く。もう20年以上前の遠い記憶、だが忘れはしない。直接加害者本人を問い詰めるとあっさり事実を認める。ところが性犯罪として立証しようとしても法の壁が立ちはだかる。カトリックの信仰篤い町、絶大な影響力を持つ教会に対し、他の被害者たちの口は重い。それでもひとつずつ証言を集め支援者を募りネットとマスコミを利用して不正を糺していく過程は、行動こそが他人を動かし世界を変えると訴える。

かつてセクハラを受けたプレナ神父がいまだに現役で子供たちの聖書指導をしていると知ったアレクサンドルは、教会にプレナの懲戒を求める。しかし枢機卿は口先だけの対応でもみ消そうとする。

その後、同じく被害者だったフランソワやエマニュエルが声を上げ、被害者の会が立ち上がる。弁護士を雇い、様々な方法で世間に広報し、時効前の被害者を見つけて刑事事件にしようと警察の力も借りる。その間、プレナは上司である枢機卿に責任を転嫁し、枢機卿ものらりくらりと逃げ回るばかり。一方で、教会との軋轢を嫌がる者、過去を思い出したくない者など被害者の反応も多様。被害者の会の中でも急進的なフランソワが勇み足を諫められたり、主張が食い違っていたりする。そのあたり、最初から全員で一致団結するのではなく意見を戦わせながら着地点を見つけるなど、個人主義のフランスらしくて興味深い。延々と続くメール文の朗読も、事件の本質を理解するのに役に立った。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

本当に恐ろしいのは、長年聖職者たちが少年たちに性的虐待を加えてきたことだろう。プレナは氷山の一角、カトリックのみならず、あらゆる宗教の聖職者は同じ過ちを繰り返してきたに違いないと、この作品は問いかける。

監督  フランソワ・オゾン
出演  メルヴィル・プポー/ドゥニ・メノーシェ/スワン・アルロー/ジョジアーヌ・バラスコ/エレーヌ・ヴァンサン/エリック・カラヴァカ
ナンバー  111
オススメ度  ★★★


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