こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

桃さんのしあわせ

otello2012-07-07

桃さんのしあわせ 桃姐

オススメ度 ★★★*
監督 アン・ホイ
出演 デニー・イップ/アンディ・ラウ/チン・ハイルー/チョン・プイ/サモ・ハン・キンポー
ナンバー 165
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

生まれたときから育ててくれた。中年を過ぎた今も家事を任せている。実の母よりずっと身近なのに、特に意識はしなかった。ただ、当たり前のようにそばにいて、身の回りの世話をしてくれる。映画は、男と、彼の一家に長年仕えてきた家政婦の関係を中心に、現代中国における高齢者社会の実態を描く。家政婦が動けなくなって初めて、彼は彼女がなくてはならない存在と気づき、身寄りのない彼女のために老人ホームを見つけ、かいがいしく見舞う。ふたりの交流はまるで血縁以上の親密さ、よき老後と死を迎えるには人との絆がいかに大切かを思い知らされる。

香港の映画プロデューサー・ロジャーが北京出張から戻ると家政婦の桃(タオ)さんが脳卒中で倒れていた。病院に運ぶが中風の後遺症が残ると診断され、ロジャーは桃さんを老人ホームに入居させる。

13歳の時から60年間ロジャーの家族に仕えてきたという桃さんは、他人の面倒を見るのは習性になっていても誰かに介護されるのには慣れておらず、ヘルパーやロジャーが手を貸してくることに居心地の悪さを覚えている。なによりいつも背筋をピンと伸ばして生きてきたのに体が命令を聞かないふがいなさに耐えられない。そんな桃さんは家政婦の人生に誇りを持ち、一方で分をわきまえてもいる。ロジャーの母からの差し入れの品は受け取ってもカネは固辞するあたり、使用人としての美学すら感じさせる。彼女の一本筋を通す生き方は、古き良き中国人の道徳観に根差しているに違いない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ひとりで食事もできない老人、誰も会いにこない老婆、女に入れ上げる元気なじいさんもいる。老人とひとくくりにしても、当然さまざまな境遇と体調の人々がいる。その中で金銭的な心配はなくロジャーが面会に来てくれてマメに電話もよこす桃さんは非常に恵まれている。もしかしてこの作品は、自分の家の家政婦を幸せにおくりだせなかった作り手側の慙愧の念が生んだのだろうか。。。

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