キック・オーバー How I Spent My Summer Vacation
オススメ度 ★★*
監督 エイドリアン・グランバーグ
出演 メル・ギブソン/ピーター・ストーメア
ナンバー 180
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
食べ物を売る屋台やレストランだけでなく、ヘロイン注射サロンや銃の売買、売春まで行われている場末の盛り場のごとき混沌。しかし、それはメキシコにある正式な刑務所、驚いたことに一般の住民も施設内で寝起きし、面会日には妻や恋人とセックスするための簡易貸しテント屋が繁盛している。当然、看守は買収され、力のある者が場を仕切り、生き残るためにはカネと人脈を利用してうまく立ち回らなければならない。映画は、無法地帯に放り込まれたアメリカ人が、度胸とアイデアと行動力でギャングを手玉に取り奪ったカネの決着をつける姿を追う。名前も経歴もすべて不明の主人公が恐るべき牙をむく瞬間が痛快だ。
米国内でマフィア・フランクの大金を強奪したドライバーはメキシコ国境を飛び越えたところで逮捕され、メキシコの刑務所に収監される。そこはボスのハビが支配する地獄のような場所、ドライバーは英語を話す少年と知り合い、将来彼がハビに肝臓を取られる運命だと知る。
刑務所内での地位を上げるために、ドライバーは他人のカネを盗み拳銃を手に入れる。だが、少年を助けるにはもっと大掛かりな作戦が必要となり、ドライバーは大金のありかをハビに教え、カネの行方を探すフランクの部下からカネを横取りさせて、ハビに近付いていく。その過程で描かれるのは、メキシコでは人命の値段も安く、値打ちのない者や目障りな者、しくじった者はあっさりと殺されていく暴力と無情の掟。そんな世界でサバイバルする男という、メル・ギブソンの原点に戻った設定に胸が躍る。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ドライバーが何者なのか一切の情報はないが、銃器の扱い精通し、ハビやフランクとの交渉時に見せる機転、さらに鮮やかな偽装工作を見せるなど、高度な訓練を受けていた人間兵器だった過去がうかがえる。ただ、謎の多さが逆にドライバーに対する距離を産んでしまい、彼の感情に入り込めないあたりに物足りなさを覚えた。