こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

あの日 あの時 愛の記憶

otello2012-08-08

あの日 あの時 愛の記憶 DIE VERLORENE ZEIT

オススメ度 ★★★
監督 アンナ・ジャスティス
出演 アリス・ドワイヤー/マテウス・ダミエッキ/ダグマー・マンツェル/レヒ・マツキェヴィッチュ/スザンヌ・ロタール/ヨアンナ・クーリグ/アドリアン・トポル
ナンバー 195
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

忘却の彼方に封印していたはずの過去が突然扉を開ける。それは死の異臭が立ち込める忌わしい記憶であるとともに、命がけで愛した男の切ない思い出でもある。もう死んだとあきらめていた彼が実は生きていた、探されなかったのは彼も自分が死んでいると思っているのだろう。いつ殺されるかわからない収容所暮らしの中で唯一の希望だった彼との恋、そして人の情けと嘘。映画は戦争という巨大なうねりに呑み込まれるのではなくあくまで抗った人々の数十年後の姿をとらえて、運命の皮肉と幸運を描く。

NYに住むユダヤ人・ハンナは、ある日TVでナチ強制収容所から脱走した男のインタビューを目にする。彼は30年前、ポーランド内のナチ収容所で密会を繰り返し、共に逃げたトマシュだった。ハンナの脳裏に当時の光景が鮮やかによみがえってくる。

ドイツ系ユダヤ人のハンナに比べ、ポーランド政治犯のトマシュはユダヤ人より自由に振る舞っている。ふたりは看守の目を盗んで貪るように求め合い、ハンナは妊娠までする。極限状態だからこそお互いの肌のぬくもりだけが生のリアリティを感じられる、人間の生存本能がむき出しになるシーンだった。また、逃亡に成功したハンナをトマシュの母は拒絶し、ナチに売ろうとする。地理的要因から常に侵略を受けてきたポーランド人にとって、旗幟鮮明にせず保険をかけ、そのためには裏切りも辞さない、そんなしたたかな知恵をこの母親は体現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

トマシュの健在を確認したハンナは、家族にも頑なにトマシュとの出来事を話そうとせず、夫婦喧嘩までしてしまう。トマシュが彼女にとって一番大切な人であると夫が理解してくれるのは分かっている、それでもトマシュと過ごした数日間が彼女の人生でもっとも輝いていたことをふたりの秘密にしておきたかったから。再会したふたりはただ見つめ合うのみ、言葉を越えた感情が交錯する美しいラストシーンだった。

↓公式サイト↓