こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

東京家族

otello2012-11-01

東京家族

監督 山田洋次
出演 橋爪功/吉行和子/西村雅彦/夏川結衣/中嶋朋子/林家正蔵/妻夫木聡/蒼井優
ナンバー 267
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

独立した家庭を持った子供たちとは、もはや元の親子関係には戻れない。老いた両親は暇を持て余すが、働き盛りの息子や娘はそれぞれの生活があり、かまってやる余裕はないのだ。映画は「東京物語」の舞台を現代に移し、物理的な距離が家族をいかにして壊していくか、会えない時間がどれほど高い壁を作っていくかを描く。鷹揚で人当たりの良い母とはみなうまく付き合えるのに、頑固でせっかちな父には遠慮する。歓迎はするが長居は迷惑、そんな親子の繊細で微妙な心理の綾が非常にリアルに再現。思いやりや絆では語りつくせない真実が、落ち着いた質感の映像に凝縮されている。

周吉ととみこは3人の子供たちに会うために東京にやってくる。長男の幸一一家と過ごすはずが急な仕事でキャンセルになり、長女の滋子の所へ行くがここも狭い。周吉とウマが合わない次男の昌次がふたりを東京観光に連れ出すが、周吉と昌次は気まずくなる。

優秀だった幸一は立派な医者になっていて、周吉たちも文句のつけようがない。いまだフリーターのような昌次は子供のころから出来が悪かったのか、周吉は昌次に小言を言う。成人した息子の仕事に干渉する周吉の気持ちは昌次にとっては煩わしいが、周吉にすれば息子にきちんとしてほしい親心。その、幾世代も繰り返された親子の葛藤に同感するだけでなく、思わず切なさを覚えてしまう。それはきっと、誰もが子の立場として経験し、そして将来親となった時に待ちうける運命だから。もう両方を体験済みの観客もいるだろう。古臭いのに普遍的、あらゆる世代の共感を呼ぶテーマに胸が熱くなる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

昌次の部屋に泊まったとみこは、恋人の紀子を紹介されすっかり意気投合。昌次が自分の優しさを受け継いでいる上に、心遣いの出来る娘とつき合っている事実に、大喜びで幸一の家に戻る。一方で前夜泥酔した周吉は、己の生き方を否定されたような不快感を露わにしている。“年老いることの幸せと不幸、どちらも含めて人生なのだ”、山田洋二監督の眼差しは、人間への愛に満ちていた。

オススメ度 ★★★*

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