こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

遺体 明日への十日間

otello2013-02-25

遺体 明日への十日間

監督 君塚良一
出演 西田敏行/緒形直人/勝地涼/國村隼/酒井若菜/佐藤浩市/佐野史郎/沢村一樹/志田未来/筒井道隆/柳葉敏郎
ナンバー 46
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

泥にまみれ汚水で膨張した死体が次々と運び込まれてくる。初めて目にする光景に、市役所職員はどのように対処してよいかわからず要領を得ない。検死と歯の治療痕から身元の特定を任された医師と歯科医はいつ終わるかしれぬ作業に、ひたすら手を動かすのみ。そしてボランティアの老人は死体を「ご遺体」と呼び、生者に話すように言葉をかけていく。映画は、被害の大きさばかりが報道される一方、「死者・行方不明者」の数としか伝えられなかった犠牲者とその家族、彼らの対応を命じられた職員に何が起こったかを追う。やり場のない怒りと途轍もない悲しみが充満する中、不慮の死を少しでも丁寧に葬ろうとする職員の心遣いに胸が震える。

3月11日の津波で町の半分が壊滅的打撃を受けた釜石市では、無事だった中学校の体育館が遺体安置所に指定される。市役所職員、自衛隊員、警察官、消防団員、医師看護師らに交じって、元葬儀社勤務の相馬もかいがいしく立ち働く。

生き残った誰もが信じられない思いでいる。停電で情報が遮断され、数十体の遺体を前にしてやっと自分のすべきことに気づいていく。できるだけ丁重に亡骸を扱って死者を悼み、できるだけ早く棺桶に入れて遺族を慰める。体育館をきれいに掃除し、遺族の要望はなるべく聞いてやる。感情的で理不尽な要求をする遺族もいるが、決して表情を崩せない。ほとんど休みを取らずに働き不満を口にする職員もいるが、それでも家族を失う痛みに比べれば弱音を吐けないと己にムチ打って職務を遂行する姿は、人間としての価値が試されているようだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

職業上の義務だからではない、ただ使命感から粛々と処理していく職員たちの自己犠牲の精神。それは恐ろしく後ろ向きの勇気で、表だって称賛を受けたりはしないだろう。しかし、あのとき無名の人々の流した汗が多くの絶望を少しずつ希望に変えていった事実を、震災をTV中継や新聞・雑誌でしか見聞しなかった者は知るべきだ。

オススメ度 ★★★★

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