監督 ジョセフ・コシンスキー
出演 トム・クルーズ/モーガン・フリーマン/オルガ・キュリレンコ
ナンバー 93
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
与えられた任務で覚える不安はどこから湧いてくるのか。なぜ遠い昔の記憶が鮮明なのか。潜在意識に刻み込まれたヴィジョンが真実ではないのか。近未来、荒廃した地球で定められた職務を遂行していた男は世界のほころびを見つけ、徐々に己の存在に疑問を抱き始める。彼がその答えを見つけ覚醒していく過程は、深遠な自分探しの旅。愛した思い出は決して消せない、映画はそんな、人が本来持っている“心”の在り方を問うていく。半分破壊された月が浮かぶ空、廃墟となり砂漠化したNY、優美なデザインで直線的な動きをする小型飛行機と攻撃ロボットなど、無機質でクールな映像が、主人公を取り巻く虚構を象徴していた。
エイリアンとの戦争で核汚染し、人類が他星に移住してしまった地球に残って哨戒活動を続けるジャックは、未確認の飛来物の中に冷凍冬眠中の女を見つける。ジュリアと名乗った彼女は、ジャックの夢の中に出てくる女とそっくりな上、ジャックを知っていた。
60年間も眠っていたジュリアは何者なのか、フライトレコーダー回収に向かったジャックとジュリアはエイリアンの生き残り・スカヴに捕えられる。だが彼らはジャックに対する敵意はなく、逆にジャックは信じていたのとは全く違う現実に気づく。日常的な違和感の正体は作り物の環境に原因があった。さらにジャックの仕事上のパートナーであり実生活を共にするヴィカがジュリアの登場に嫉妬するなど、こんなところでも生々しい感情が発露する。意志があるからこそ人間は不安定で不完全な生き物なのだ。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
やがてジャックは彼自身もまた何物でもない偽物であると知る。それでも、フライトレコーダーに記録された“本当のジャック”の姿を見て、よき死に様を選択する。そして、肉体はフェイクでも魂は本物だったと証明するのだ。アイデンティティとは、自ら思考し行動し結果に責任を持って初めて生まれると、この作品は教えてくれる。
オススメ度 ★★★*