こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アイアン・フィスト

otello2013-05-18

アイアン・フィスト The Man with the Iron Fists

監督 RZA
出演 ラッセル・クロウ/RZA/ルーシー・リュー/カン・リー/バイロン・マン/リック・ユーン/デビッド・バウティスタ/ジェイミー・チャン
ナンバー 111
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

胡散臭い格闘家同士のバトルに始まって、銀の爪、吹き矢、ガン型ナイフ、仕掛け鎧や扇、鋼鉄の義手まで、斬新な小道具を使いこなす達人たちが、卓越した身体能力を駆使してスクリーン狭しと暴れまわる。まるで饐えたにおいが鼻をつく場末の見世物小屋でショーを見ているかのごとき映像は、香港映画界がまだローカル市場に向けて粗製濫造していた時代の武侠映画の面影を色濃く残し、リアリティから解放された自由な発想は未体験の楽しさを味あわせてくれる。カンフーを基本にした流麗な身のこなし、パワーで重視の西洋的な格闘技、さらに肉体と精神の融合を説く過程は禅の思想にも通じている。それらの要素がごった煮され、凝縮されたシーンの数々は創意と躍動感にあふれていた。

金塊輸送の護衛を頼まれた金獅子は部下の銀獅子に裏切られ殺される。銀獅子は金獅子の息子、ゼン・イーにも刺客・クォンを送り込み、瀕死の重傷を負ったゼン・イーは鍛冶屋に助けられる。そのころ、村一番の娼館に謎の英国人・ジャックが現れる。

一癖も二癖もありそうな風貌の登場人物が跳梁跋扈する。父の敵討ちというわかりやすい目的を持つゼン・イーと銀獅子側の悪党たちは行動を予測できるが、生き残るためになるべくトラブルを避けている娼館の女主人や女遊びに夢中のジャックは、誰に味方するかわからない。物語はいつしか無国籍風のカオスに陥り、もはやストーリーの展開を追うよりも、どんな奇抜なアクションが飛び出すかのみに関心は移る。特に金塊を守る男女ペアの武術家が繰り出す攻守一体のアクロバティックな技のキレ味はアイスダンスのよう。その美しさと速さはアートの域にまで昇華されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて鉄の拳を操る“気”を体得した鍛冶屋は、怒りを込めたパンチをクォンの真鍮のボディに見舞うが、なかなかダメージを与えられない。この2人の決闘を頂点とするヤマ場の波状攻撃は、ラッセル・クロウの存在をほとんど意識させないほどの圧倒的なB級テイストに満ち、しばし時間を忘れた。

オススメ度 ★★★

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